【連載 イタリア支局長だより】第7話 近所のスーパー

イタリアでも物価高が進む中、スーパー選びは死活問題。何がどこでどんな値段で売られているかを知ることは、家計を切り盛りするうえで重要だ。しかし、値段だけで決めては面白味に欠ける。買い物する楽しさやお金を払う喜びがないとつまらない。

私が買い物をするのは主に専門店だ。野菜は職場近くのお店、肉は自宅近くの肉屋を利用している。ただ野菜や果物は、最近新たな浮気先が見つかった。自宅のすぐ近くにある小さなスーパー「ラ・ボッテーガ」だ。ここは50年以上続く家族経営の店で、非常にアットホームだ。私がたまに利用するディスカウントスーパーと比べると値段は2~3割ほど割高だが、この店に行くと、とても気持ちいい気分になる。100平米ほどの店内には、所狭しと色々な商品が並んでいる。メインは食材だが、店の奥にはロウソクや延長コードなんかも売っている。地元民がわざわざ車で大型スーパーや家電店に行かなくていいように、日用品は大体揃っているのだ。

スーパー「ラ・ボッテーガ」の外観
スーパーの店内(1)
スーパーの店内(2)

私は、ここで恥ずかしい思いをしたことがある。息子が我が家に泊まりに来た時だ。私は息子の歯ブラシを買いにこの店に行った。歯ブラシは1ユーロだったが、うっかり銀行に行くのを忘れ、財布には1ユーロすら入っていなかった。カードで払おうとしたら店主のシルバーノさんは、「今日は金はいいから、明日また持ってきな」と言ってカード払いを拒否し、歯ブラシを渡してくれた。私は自分の行為が恥ずかしくなって、急いで車に戻り、車の中に常備している小銭から1ユーロ取ってお店に戻った。たかが1ユーロをカードで支払うとは、キャッシュレスが進む世の中でも非常識であった。

それからこんなこともあった。仕事が終わり夜7時半過ぎに自宅に着いたら、冷蔵庫も棚もすべて空っぽだということを思い出した。せめてパンでもと思い、シルバーノさんのお店に急いだ。営業時間が夜の7時半までということは知っていたが、パンくらいなら許してくれるかもしれない。私が到着したのは7時35分くらいで、ちょうど息子さんがお店のシャッターを下ろそうとしていた。私は恐る恐る「パンだけですが、まだ買うことはできますか」と尋ねた。すると奥の方から母のアレッサンドラさんが出てきて、「いいよ、いいよ、でも前の扉はもう閉めたから、こちらの裏口からお入りなさい」といって、裏口に通してくれた。裏口は自宅の玄関にもなっていて、中から大きなワンちゃんが出てきた。その時初めて、このお店が店主の自宅と繋がっていることを知った。それから快くパンを渡してくれ、この日も「今日はお金はいいから明日持っておいで」と言ってくれた。

 こうした些細で素朴なやり取りが私の心を打ち、今ではこの店が一番のお気に入りになっている。私が住む地区はフォリーニョ市内から5kmくらい離れているので、どこに行くにも車が必要だ。この素敵な店が営業を続けていることで、人々は車を使わずに生活が出来ている。私は市内まで車で通勤しているので、ディスカウントスーパーを利用することもある。それでも、このお店の常連であり続けたい。彼らの笑顔はお金では買えないエネルギーを私に与えてくれるから。

(イタリア フォリーニョ支局長 ジョー)

店主のシルバーノ夫妻