【支局長便り】公務員を目指す君たちへ 霞が関の官僚に負けない市町村職員になろう!

『かがり火』の読者には地域づくりに前向きに、かつ献身的に取り組んでいる実践者の方が多いと思います。また高校生や大学生で公務員を目指している人もいらっしゃるのではないでしょうか。

そんな若い人に、私が考える「住民みんなの笑顔が自分の幸せにつながる自治体職員像」を聞いていただきたいと思います。

【竹見聖司(丹波篠山市役所。ふるさと日本一丹波篠山支局長)】

※この記事は、地域づくり情報誌『かがり火』175号(2018年6月25日発行)掲載の内容に、若干の修正を加えたものです。
※篠山市は令和元年(2019年)5月1日より丹波篠山市に改称しました。それに伴い、記事中の記載も「篠山市」を「丹波篠山市」に改訂しています。

公務員の魅力は身分が保証されていることではない

公務員を志望する人は多く、大学の先生などと話をしても公務員志望の大学生はたくさんいるようだ。学生だけでなく、その保護者にも息子や娘に公務員になってほしいという願望があるようで、「公務員は人気職場」というのが一般的認識になっている。

こうした傾向は、景気の良い時期は比較的低いようだが、景気が悪くなると高くなる。かくいう私の息子も大学の生協が募集している公務員講座に通うらしい。

では、公務員を志望する人たちはどんな「公務員」になりたいのだろうか。公務員と一口にいっても、学校の教員、警察官、市バスの運転手、市町村の行政マン、都道府県や中央省庁の職員など多種多様である。技術者や研究者などの専門職もあるが、特に専門がない一般行政職というのもある。

公務員を目指す人は専門の職種を選ぶ人もいるが、多くは「公務員」という身分を求めているのではないだろうか。そんな人たちに、市町村職員とは「身分ではない」ということを認識してほしいと考えている。

とはいっても、現在の市町村職員やこれから目指そうとしている人は、いわゆる安定した身分、規則正しい勤務時間などの条件を求めて就職したのであって、具体的な市町村職員像があって就職したという人は少ないかもしれない。

実際、就職しても数年ごとの人事異動により、住民課、福祉課、建設課、観光課、総務課など、いろんな分野を転々とすることになる。私自身、地元の丹波篠山に住み続けたい、身近な地域で転勤のない落ち着いた人生を送りたいと考えていた。

だから、単に公務員を志望したからといって非難することはできないし、単純に公務員になりたいという志望動機であっても良く、むしろそれが普通だとさえ思っている。

それよりも、就職してから地域のことをよく観察し、住民の声をよく聴いて、自分なりの汎用性ある市町村職員像、ブレない目標を見つけてほしい。

大好きな丹波篠山市

本題に入る前に丹波篠山市の紹介と自慢を少しだけ。丹波篠山市は、兵庫県中東部の京都府と大阪府の府県境にある。人口は4万2000人ほどの小さなまちだが徳川家康の命で、天下普請でつくられた篠山城跡を中心に今も昔の面影を残している。

丹波篠山市のシンボルとなっている篠山城跡。

京阪神から1時間という利便性にもかかわらず、まるでタイムスリップしたかのような空間を求めて、多くの観光客がまち歩きや古民家ステイを楽しんでいる。

他の有名観光地と異なるのは、観光客でにぎわう中心地でも普通の市民の暮らしが身近に感じられることだろうか。河原町の重要伝統的建造物群保存地区には古民家風の肉屋さんや本屋さんがあり、観光客の行き交う中を小中学生が通学している風景がある。

一歩郊外に出ると丹波篠山黒大豆や山の芋などの特産を栽培するお百姓さんが農作業に汗している。のどかな田園風景と相まって、何とも言えない日本の原風景を創り出している。

そんな、何気ない普通の暮らしをいろんな人が支え合い、お互い様の感謝の念で成り立っている丹波篠山のまちが、私は大好きだ。

重要伝統的建造物群保存地区に指定されている河原町は、人気の観光エリア。

地方自治体と地方公務員

さて、本題に戻ろう。ちょっと難しい話になるが、地方自治法第1条の2には、「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。」と規定されている。

では、ここでいう「住民の福祉の増進」とは何か?私なりの解釈を端的にいうと、「住民の幸せ」であり、地方自治体の究極の目標は「この地に住んで良かった」と感じてもらえる地域社会を創り出すことだと考えている。

そこで、市町村の職員としては地域や住民の皆さんの役に立つような仕事をしたい!と考えるのが、ブレない目標を見つける第一歩ではないだろうか。

では、具体的に地域や住民の皆さんの役に立つような仕事をする上で、市町村職員として何ができるのか?市長や町村長は、選挙権を持つ住民の投票によって選ばれたリーダーである。

それに対し、私たち職員は首長の補助機関として、首長の指示命令によって仕事をしている。だから、法令に違反するようなことがない限り、首長の指示命令に逆らうことはできない。

他方で、住民に選ばれた首長の任期は4年だから、長期展望に立ちつつも任期を意識した言動にならざるを得ないが、私たち職員は地方公務員法で身分が保証されており、いったん就職すると多くの職員は長期的展望に立ったまちづくりや法令の解釈、住民対応ができるという優位性がある。

補助機関の限界と身分の保証をどう理解してどう使うかによって、住民にとっても自分にとっても、役に立つ職員にも役に立たない職員にもなる。

「休まず 遅れず 働かず」は、公務員を揶揄する言葉の代名詞のように使われているが、この言葉のような姿勢の公務員のために身分が保証されているのではなく、40年という長いスパンでまちづくりを思考でき、短期思考になりがちな首長のサポートをするための一つの武器として、この身分保証を使いたいものである。

理想的な自治体職員像を追求して働いている竹見聖司さん。

さて、21世紀の新しい公務員像の一つとして「スーパー公務員」という言葉がよく聞かれるようになった。

この単語は、竹中平蔵経済研究所とスーパー公務員養成塾実行委員会主催による21世紀型公務員創出プロジェクト「スーパー公務員養成塾」が提唱したとされており、従来の調整型から新しい世紀に合致した立案型への転換を目指したもののようだが、「何か特別なことをやっているすごい人のことで、とても自分にとって身近な存在ではない」などと考えている人が多いのではないだろうか。

私は、市町村職員はあくまで「普通」で良いと思っている。住民の皆さんと同じ視点で話し、考え、行動する。特別すごい発想や行動力を持たなくていいので、ごくごく自然に住民の皆さんと一緒に考え、悩み、その解決策を探ることで十分だと考えている。

ただ田舎であっても「魚の切り身が泳いでいるのではないか?」と思う子どもが出てくる時代である。お米を作る大変さ、買い物や塾まで送迎が必要な地域の事情、地域のお祭りを続けることの大変さ……こんな暮らしの背景に気付くことが何より大切だと思っている。

住民の皆さんとごく普通に話をし、暮らしの中にある課題を見つけて解決策を一生懸命に模索すれば、「特別すごい」スーパー公務員でなくても、「普通」スーパー公務員になっているのではないだろうか。

古民家を再生したホテルは近年、外国からの観光客にも人気。

地域の活性化って何?

ところで、日本創成会議が発表した「消滅自治体」と、その後の地方創生、総合戦略、人口ビジョンなどなどの具体的な動きの中で、「人口減少をどう食い止めるか?」ということが全国の市町村の課題となった。

右肩上がりの幻想に終止符が打たれ、人口減少社会に正面から向き合ううようになったことに一定の評価はしたいところだが、日本全体の人口減少が決定的な状況の中で、自分の市町村だけが減少幅を抑制したり、横ばいとする目標は、本質的な部分で右肩下がりの社会に対応することから目を背けているのではないだろうか。

国全体で日本の人口をV字回復しようとする少子化対策や働き方改革をするのはともかく、市町村レベルでできることを考えた時、国全体のパイが限られている中で、出産お祝い金や保育料の減免、医療費の助成など、サービスの過当競争による税金の無駄遣いをして人口を奪い合う数字合わせはどうか?という意味で、人口減少は悪なのか?という疑問すら生まれてくる。

同様に、過疎対策、人口減少対策と双璧のようにいわれてきた地域活性化についても、地域が活性化するってどういうことをいうのか?

一人の人間としての日々の暮らしの視点から考えた時、「国からいわれて、都道府県や市町村の行政からいわれて、地域を活性化する『ため』に、やっと休めた休日にイベントのスタッフに駆り出されてヘトヘトになった……」などということはどういうことなのか、しっかりと考える必要があるのではないか。

それは、休日は地域の皆さんとはお付き合いしなくてもよいという個人主義的な暮らし方を勧めているわけではない。

そこに暮らす人たちにとって何が一番大切で、その目標に向かってどういった地域共同活動や行政などとの協働が必要か、そのことをみんなで共有できているのかどうかということを言いたいのである。

大きな目的はそこに暮らす皆さんの幸せであって、人口を増やすことや地域を活性化することは手段であって、その過程の一つの現象でしかないのである。

デカンショ祭りは城跡に特設舞台をつくって市民が踊る、人気の盆踊り。

市町村職員が勝負するところ

私たち市町村職員は、国の省庁のお役人(特にキャリアと呼ばれる人)や都道府県の専門知識の高い職員さんと比べると、福祉、教育、まちづくり、農林水産……などの分野別行政での専門性ではかなわない。

彼らは、難しいレベルの試験を通って単に頭が賢いというだけでなく、ずっと同じ分野の仕事をする(いわゆる「縦割り」)わけだから当然ともいえる。翻って私たちはいろんな行政分野を数年単位で渡り歩く(異動)のだから、分野ごとの深い専門性を競っても意味がない。

ところで、年度末の時期になると、あちこちでこっそりと人事異動の話に花が咲く。「○○課に行きたい」「△△課は嫌だ」……。私は奉職して30年。

宿泊施設の受付、住民票の写しの交付、土地利用政策、介護・健康保険、企画調整、農業土木と異動し、今春から総合調整、定住促進、企業誘致、公共交通を一手に担う課に配属されている。

今振り返ってみると、窓口事務はつまらない、土木や福祉分野は苦手、権限のある職場が良い……などと偉そうな思いを持っていた時期があったことも否定できないが、あちこちの職場を経験する中で、暮らしの現場で住民の皆さんの幸せを支えるという市町村職員としてのミッションを考えると、どんな職場であってもいろんなアプローチができるのだということがようやく分かりかけてきた。

そうして私なりの「ブレない市町村職員像」が構築されつつあるのではないかと思っている。

では、身分じゃない市町村職員として、首長の補助機関の一介の職員として、専門性があるわけでもなく、すぐに違う行政分野に異動するかもしれないのに、住民の皆さんの幸せを支えるなんて大きな目標に向かってどんなことができるのか?

それは、暮らしの現場と行政をつなぐ役割だと思っている。これが実は今の社会や行政で一番不足している。その結果、縦割り行政の弊害といわれるしゃくし定規な対応や、税金の無駄遣い(二重投資)が起こっているのだと思うのだ。

そう、私たち市町村職員が勝負するところは、住民の皆さんの暮らしの現場と行政をつなぐ総合窓口、総合相談、総合対策など、コーディネート機能のプロフェッショナルになることだと思う。

田園の中を壮麗な山車が練り歩く祇園祭。

こんなやりがいのある職場がほかにある?

まちは活性化する必要があるの?と問い掛けたが、定義はともかく社会全体としてはそれを望んでいるのだろう。もちろん、行政マンだけの仕事ではないが、それは国の省庁の役人や都道府県の職員さんには決してできない(やりたくても現場がない)行政の大きな柱の仕事になっている。

同様に、住民の皆さんの幸せを支えることも、行政だけの仕事ではないが、国や都道府県の行政マンは制度を作ったり市町村を支援するお金は用意できても、直接的に住民の皆さんを支えることはできない。

あくまでも住民の皆さんと直接接する総合行政体としての基礎自治体(市町村)の仕事をする私たち職員がいないと実現しない。このことにプライドを持つべきである。

このように考えると、私たち市町村職員の仕事って何て重要なんだろう!何てやりがいがあるんだろう!と思うのは私一人だけではないだろう。最初は身分目当てでもいい(私もそうでした)。

でも、このまちが大好きでみんなの笑顔に接することが自分自身の幸せでもあると思える職員。政治家のように短期的なリーダーシップは発揮できなくても長期スパンでまちづくりに関わろうという姿勢。分野別の専門性は低くても、現場を通した課題解決ができる横断的、総合的な取り組みでは負けないという自負。

50歳になって、もう遅いかもしれないがようやくそんな道筋が見えてきた。そして他人の役に立つなどという大それたことではなく、実は自分が一番幸せになっていると感じる日々を過ごしている。

2012年『かがり火』145号で 紹介された「集落丸山」のその後と私

今春、内閣官房に「歴史的資源を活用した観光まちづくり連携推進室」が設置され、ここのモデル事例として丹波篠山市内の町屋改修や「集落丸山」の取り組みが紹介され、注目を集めている。

古民家を1泊4万円の高級ホテルに再生した「集落丸山」。

その「集落丸山」に市町村職員グループの視察受け入れをお願いし、後日お礼に行った際のこと。

オーベルジュ(宿泊できるレストラン)スタイルの「集落丸山」を共同経営するNPO法人集落丸山代表の佐古田直實さんは、「ホテル営業は自分たちにはあまり関係がない。むしろ、いろんな人が入ってくることにより、村人の姿勢が前向きになったり、耕作放棄地が減っていることがうれしい」と、本質的なコメントをされた。

「住民の姿勢が前向きになることが大事」と佐古田直實さん。

このコメントに大きなショックを受けた。市の職員として、今まで何を見てきたのか?何をしていたのか?何のための行政マンか?行政の仕事は何なのか?……いろいろ考えさせられたが、やはり答えは現場にあったと思い直した。

幸い現職の間に気付くことができた。真に住民のために働ける時間がまだ私にも残っている。

(おわり)

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