【第17回】そんな生き方あったんや!「幸せは生活の中にある」幸福プロデューサー・堂原有美さん

今回ご登場いただくのは、広告プロデューサーとして活躍しながらも突然会社を辞め、「幸福の秘密」を探るべく世界一周の旅に出た、堂原有美さんです。

地元名古屋の広告会社に就職した堂原さんは、名古屋市と協働して「名古屋おもてなし武将隊」を立ち上げ。「イケメン武将隊」として話題になり、2010年に生み出した経済効果は何と26億円。名古屋のPR大使として地域を大いに盛り上げ、その成功を追うように全国に50以上の武将隊が誕生しました。

そんな堂原さんと杉原が出会ったのは2003年、お互い広告会社の新入社員だったころ。業界の合同研修でお会いしたのですが、彼女は当時から自分のホームページで情報発信するなど、ただならぬバイタリティーを発揮していました。「おもろい人やなぁ」とは思っていましたが、まさか世界一周の旅に出るとは思いませんでした。旅を終えて東京に来ていた堂原さんをつかまえて、お話を聞きました。

※この記事は、地域づくり情報誌『かがり火』192号(2020年4月25日発行)に掲載されたものを、WEB用に若干修正したものです。

【プロフィール】

堂原 有美(どうはら ゆみ) 幸福プロデューサー。愛知県生まれ。「幸福度の高い」国を巡り、幸福度と教育の相関関係を探るべく、2019年4月より9カ月の世界一周の旅に出る。前職の広告会社では、愛知の「武将観光」立ち上げに参画。サムライ好きのジョージ・ルーカス監督に協力を仰ごうと、依頼内容をつづった巻物を送付。何と秘書から返事の手紙が届く。2009年より名古屋おもてなし武将隊の立ち上げ、企画に奔走。イケメン武将隊として話題となり、2010年の経済効果は26億円、全国に50以上の武将隊が誕生。受賞歴は「地域電通広告賞」、「愛知広告賞」、「ACC地域広告賞」など。
日経doors連載:『幸福国を巡る世界一周の旅』
ホームページ:『世界一周幸福国を巡る旅』

杉原 学(すぎはら まなぶ) 哲学専攻。研究テーマは「時間と人間との関係」。大阪府生まれ。四天王寺国際仏教大学中退。インド放浪後、広告会社のコピーライターに。退職後、立教大学大学院にて自殺予防をテーマに修士論文を執筆。博士課程中退。単著に杉原白秋著『考えない論』(アルマット/幻冬舎)、共著に内山節編著『半市場経済』(第三章「存在感のある時間を求めて」執筆、角川新書)。世界で最も非生産的な会議「高等遊民会議」世話人。かがり火WEB共同主宰。日本時間学会会員。

ジョージ・ルーカス監督に巻物を送る

杉原 堂原さんといえば、やっぱり「名古屋おもてなし武将隊」の仕事だと思うんですけど。ちょっと説明してもらっていいですか?

堂原 はい。愛知県の仕事で、愛知にゆかりのある戦国武将を紹介するホームページを作ることになったんです。その中で、江戸時代のお殿様の7割が、愛知県にゆかりのある人だったことがわかって。「これってすごいことなんじゃないか」って。でもそのことが全然世の中に知られていない。もっと発信すべきだし、「サムライ」っていうことだったら世界に売り込める。

そこで、ジョージ・ルーカス監督に「愛知県はサムライの国だ!」って言ってもらえればすごいPRになるじゃん、と思ったんです(笑)。ルーカス監督は日本文化、サムライ文化が好きで、『スター・ウォーズ』のダース・ベイダーは甲冑がモデルになったとも言われているし。ほんとにもう、無謀なんだけど(笑)。

杉原 普通だったら、途中でわれに返って「いやいやいや……」ってなりそうですけど(笑)。

堂原 そうなんだけど、たまたま私の上司もクレイジーな人で、「お、いいね」って。「やるべきだよ」って応援してくれて。それで巻物を買ってきて、「こういうプロジェクトをやるので協力してくれませんか」って書いて、ルーカス監督に送ったんです。「いかにも日本!」って感じの、つづらみたいな箱を作ってそれに入れて(笑)。

当然無視されると思っていたら、秘書の方から返事が来て。「ルーカス監督は応援はできませんけど、すごく冒険心のある面白い企画なので、頑張ってくださいね」って書いてあって。もう感激して、その後「ルーカス監督に、愛知でサムライの映画を撮ってもらおう!」っていう署名集めをしたんです。愛知県中を回って、巻物に名前を書いてもらって。

杉原 やってた、やってた。

堂原 まあそんなことがあって。で、名古屋市役所にも、同じように名古屋の武将文化を広めていきたいと思っている方がいて。そんな思い入れがある人たちと一緒に、名古屋の観光PR大使として「名古屋おもてなし武将隊」を立ち上げたんです。それが2009年。武将はみんなイケメンで、「戦国武将が現代によみがえった」という設定がとてもウケて。

例えば信長なら、「わしが織田信長じゃ。486歳である」みたいに、言葉も振る舞いも本人そのもの。一時期はZepp名古屋みたいな大ホールが埋まるほどの人気で、当時の経済効果は26億円以上。名古屋の魅力をPRしながら、イケメン武将たちのイベントやグッズ販売などでも収益を上げられるようになったんです。

名古屋おもてなし武将隊。結成して11年目に突入!

杉原 すごいですよね。しかもそういうプロジェクトって、始めてもすぐ終わっちゃうことが多いですけど、今もずっと続いていますもんね。

堂原 ありがたいことにね。名古屋市役所の方と、いかに採算化するかも考えながら始めたんですけど、それってすごく難しいことで。起業するようなものじゃないですか。だから、国からの補助金期間が終わってからは、半分は自分たちの稼ぎで、もう半分は名古屋市の事業費で賄っています。とはいえ、行政絡みの仕事でそれだけ収益化できているプロジェクトって実はほとんどないので、優秀なプロジェクトとして認められているんだとか。女性ファンがついたのが大きくて。

杉原 イケメン武将たちのね。

堂原 そうそう。まあでも、あくまで地域のためにつくられたものだから、利益の追求はそこまで重要ではないと私は思っていて。もちろんお金は重要だけど、地域をPRするのが仕事だから。地域に思い入れがある私にとっては、願ったりかなったりの仕事でした。

会社員としての葛藤

杉原 その「地域をPRしたい」っていう想いは、どこからきているんですか?

堂原 いま思い返してみると、当時はすごく名古屋がばかにされていて。「何もない場所」とかって。そのことにすごくイライラしていたのを思い出した。悔しかったんだ、その時は。それを覆したかったのが大きい。自分の住んでいるところだし。あと、私はお金を稼ぐことより、世の中のためになるような、社会的な活動に興味があって。マザーハウス(「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念にバッグなどを製造・販売する社会的企業)の山口絵理子さんがすごく好きで、有名になる前に会いに行ったんです。私、誰彼かまわず連絡しちゃうから。

杉原 ジョージ・ルーカスとかね(笑)。

堂原 私はみんな友達だと思ってしまうので(笑)。その後、山口さんはあっという間に有名人になっちゃったけど。あと、エシカルジュエリーのHASUNAという会社を立ち上げた白木夏子さんとも交流があって。地元が一緒で、中日新聞の学生スタッフを一緒にやっていたんです。そういう周りの人たちの影響もあるのかな。わかんないけど。

スイスの美しい街並み。

杉原 会社で働いていると、どうしてもそこの世界に埋没しがちですけど、ちゃんと別の世界にもアンテナを張っているのがすごいなと思って。

堂原 そういう周りの人たちを見ていたから、会社を辞めたのかな……。やっぱり会社でできることって限界があるなと思うし。企業にいる限り「利益のため」っていう仕事が絶対に出てきちゃうから。

杉原 確かにいわゆる営利企業と、社会課題の解決を目指すソーシャル・ビジネスとでは、評価の基準が違いますからね。でも武将隊では、それが重なっていた部分があると思うんですよね。

堂原 そうですね。やっぱり地域をよくしたい、PRしたいっていう気持ちがあって、そこにのめり込んだっていうのがあるから。ただやっぱりどこかで、やりたくてもやれないこととか、抑制しなくちゃいけない部分があったのかもしれないですね、会社員として。

「幸福国」を巡る旅へ

杉原 広告プロデューサーとして大活躍されていたので、「会社を辞めて世界一周の旅に出た」と知った時はびっくりしました。世界を旅したいっていう思いは前からあったんですか?

堂原 もともと幸福とか幸せに興味があって。「世界のみんながハッピーになるような仕事ないかなー」と思っていたんです。それでフィンランドに行けば何か分かるかな、と思って。

杉原 「世界幸福度ランキング」1位の国ですよね。今年3月に発表された最新のランキングでも、フィンランドは3年連続で1位。日本は62位でした。

堂原 そうですね。で、フィンランドでいろんな人に幸福の理由を聞いたら、いろいろあったんですけど、全員が「教育がいい」って言ったんです。実際フィンランドの教育関係者に会って話を聞くと、個性というものをすごく重要視していて。日本特有の、全員前へ倣えの教育とは正反対で、子どもたちはそれぞれバラバラなことをやっているんです。それが幸福度の高さと関係しているんじゃないかと。

確かに武将隊で人を育てる中でも、その演者の得意なことが伸びると、バッとブレークするっていうことがあったし。「あ、教育ってすごいな」と思って。やっぱりそれぞれが好きなこと、得意なことを伸ばしていくことが大切で、そうすれば世の中のピースが全てきれいに埋まるんじゃないかな、と思って。だって、誰ひとり同じ人間なんていないじゃないですか。

杉原 なるほど。フィンランドに行って、「好きなことを伸ばす教育は、幸福度を高める」という仮説が生まれた。それを検証するために、世界一周の旅に出たと。

キューバの革命広場。チェ・ゲバラが描かれたビル。

堂原 そう。まあ結局、「とにかく好きなこと、得意なことを人はやるべきですよ」っていうことを言いたいがための旅。というのも、あらためて自分自身のことを振り返ってみると、けっこう敷かれたレールに乗ってきた気がして。実は好きなことを自分で選べていないんじゃないかと。どこかで人の顔色をうかがったり、いい子になろうとしていた自分に対する悔しさがあって。今回の旅は、それを晴らしたいっていう思いもあったんです。それで、「幸福度と教育の相関関係を探る」というテーマを掲げて、27カ国の「幸福度の高い国」を巡りました。

実際に行ってみると、幸福度が高いといわれる北欧でも、日本と同じように不満を持っている人もたくさんいるんですよね。上を見ちゃうというか。ただ、やっぱり北欧のほうが、日本よりも幸せを感じられる要素は多いと思いました。人口が少ない分、生産性を高めないといけないから、誰もが心地よく働ける環境をつくっていて、働き方の自由度が高い。会社を辞めても学び直せる制度があったりして、好きなことを仕事にしやすい社会なんですよね。

女性のほうが「幸せ」って言う人が多くて、「何も諦めなくていいのよ」と言われたのが印象的でした。女性は不利な立場になりやすいからこそ、その国の制度のよさに気付きやすくて、「幸せ」を感じ取るのに長けている気がする。やっぱり「今ある幸せに気付くかどうか」が大事で。あと北欧諸国は投票率が高くて、政治が信頼されている。日本はそこを何とかしないといけないのかなと。

杉原 なるほど。

堂原 ちなみに「幸福度ランキング」にもいろいろあって、それぞれ指標が違うんです。フィンランドが1位なのは、国連のランキング。GDPや生活の質が重視されていて、北欧の先進国が上位を占めています。私がもう一つ参考にしたのは、スイスの調査機関によるランキング。こちらはより主観的な幸福度が基準になっていて(純粋幸福度)、そこでの1位はフィジー。あとフィリピン、コロンビアといった国が上位に入ってきて、どこも家族関係が強い国だったんだよね。貧しい国もあれば、危険な国もあるけど、そういう国ほど助け合わないと生きていけないから、すごく強い関係があって。

例えばメキシコだと、毎週末に家族で集まる習慣があるし、ベトナムで「幸福な時はいつですか」って聞いたら、必ず家族の話になる。それが人間の幸せの根底にあるっていうことを、このランキング結果は証明していると私は思っていて。さらに突き詰めると、つながりがあるということは、依存できるということ。助けてくれる人がいればラクに生きられるし。人とのつながりが幸福度を上げるのは、多分、その部分が大きいんだなって。だからもう、他人にはどんどん頼っちゃえばいいんじゃないかと思っています。もっとラクすればいいし、一人だとやっぱりつらいですからね。

杉原 すごく共感します。

堂原 今ある幸せに気付くこと。好きなことをやること。あとは人間関係、依存する人を増やすこと。仮説からすると、ちょっと膨らんだ結論にはなったんだけどね。

ベトナムでのボランティア活動。山奥の学校の子どもたちに生活物資を届ける。

「先進国」が失ってきたもの

杉原 そう考えたら、日本は「自立しろ」って言い過ぎたんですかね。「人さまに迷惑を掛けずに、頼らずに生きていけるようになれ」みたいな。経済発展すれば幸せになれると思っていたのに、気付いたら、幸せの条件である依存関係を破壊していたわけで。その過程で失ったものは、他にもたくさんある気がします。

堂原 私は特に「環境」は大事だと思っていて。フィジーの場合だと、普通に木の実とかが落ちているから、何もしなくても食べていけるんですよ。でも、そこに先進国のイギリスとかが勝手に入ってきて、「こんな怠惰な暮らしは人間の暮らしじゃない」とか言って、ツナ缶工場をつくらせたりとか。それでもフィジーの人たちは全然働かないから、そこにインド人を連れてきたり。そういうことがなければ、本来残されていたはずの大切なものが、もっとたくさん残っていたんだろうなって。

杉原 今となっては、かつての生活に戻ろうと思ってもできないわけですよね。それを支える環境自体が失われているから。そこがやっぱり難しくて。哲学者の内山節先生(本誌編集人)は、半分東京、もう半分は群馬県の上野村で生活しているんですけど、そこではペレット発電機を使っていて、間伐した木や、材木用に使えない部分を燃料にしているそうです。そうやって技術としては新しいものを入れながらも、やっていることは実は伝統回帰で。昔は地域のエネルギーって木だったわけじゃないですか。そうやって地産地消的なことを復活させていくのは、すごくいいなと思って。

堂原 うん。もうそれしかないかもしれないですよね。大きな転換というか、新しい価値観が必要な気がするよね。今のままだと、この先が描けないもん。だから逆に、描き直したいよね。

杉原 「描き直す」っていいですね。まさにそういう動きが、辺境から少しずつ生まれていると思うんです。ただ多数派ではないから、表立っては見えてこないですけど。で、そっちがこれから力をつけていくと思うんですよね。

堂原 うん。そうですね。

ウガンダの学校にて。

「地域」が秘めた可能性

杉原 人間には「風の人」と「土の人」がいて、それぞれ役割があるっていいますけど、堂原さんは「風の人」なのかもしれませんよね。農学者の玉井袈裟男さんによれば、「風は遠くから理想を含んでやってくるもの 土はそこにあって生命を生み出し育むもの」(「風土舎創立宣言」)で、その風と土によって「風土」がつくられると。『かがり火』の読者には「土の人」が多くいらっしゃるので、堂原さんと親和性があると思うんですよね。なので読者の皆さまにはぜひ、堂原さんをそれぞれの地域に呼んでいただけるとうれしいです!

堂原 ありがとうございます(笑)。地域っていうことで言うと、北欧とか幸福度の高い国は、人口が500万人とか700万人とかだから、小回りが利くんですよね。それに対して、日本は図体が大き過ぎる。だから地域っていう小さな単位で動くことがとても有効だし、逆にそうじゃないと動いていかない。日本にとって、地域っていうのはすごく可能性を秘めた単位だと私は思う。で、一つの地域が突き抜ければ、「じゃあウチも!」ってなるところもあるだろうし。いかに自分たちのまちを住みやすくするか。それを小回りの利く単位でやっていくのが、日本としては得策なんじゃないかな。

杉原 ほんとそう思います。中央から革命は起きないですからね。

ゲストの堂原有美さん(左)と杉原。雰囲気ある喫茶店「伊藤珈琲店」(東京都大田区)にて。

堂原 うん。私もどうしたら政治が動くだろうとか、いろいろ考えてはいるけど、日本の図体の大きさとか、長い歴史がつくったしがらみとかが絡み合っていて、うーん……。地域で頑張るしかないよ(笑)。

杉原 賛同します(笑)。では最後に今後の抱負などを。

堂原 とにかく今は、「思いっきり好きなことをやって生きたらどうなるか?」っていうのを、自分自身で大実験中で。世界一周したのもそうだし。妥協したら実験にならないから、体張ってやっている感じ(笑)。あとは世界の教育も見てきたので、それを伝えることもやっていきたいです。

で、これは自分の経験から言えるんですけど、「自分は何をやっている時が幸せなのか」を考えて、そういう時間を徐々に広げていけば、どんどん幸せになっていくんですよね。私の場合は、あったかくてぽかぽかした日に、光を浴びているだけで幸せだったり。好きな友達と一緒にご飯を食べたり、話ができたら幸せだし。幸せは生活の中にあるって、本当にそう思います。

エルサレム旧市街をのぞむ。

(おわり)

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