訪問するたび進化を感じるまち、それが、シティプロモーションによる「まちづくり」で成果をあげている埼玉県北本市だ。3度目の訪問となる今回は、以前も取材した北本団地の共用スペース「中庭」を見学した後、2年連続で広報日本一に輝いたことを記念して開催された「広報きたもとPR展&トークショー」に参加。終了後には、広報担当者に話を聞かせていただいた。
シャッターが開き始めた北本団地商店街
好天に恵まれた2023年11月18日、今回も北本市在住の西村一孝さんから招かれ、シティプロモーションイベント「&green Day-北本の魅力を楽しむ1日-」に参加した。朝10時に北本駅に集合した参加者10数名は、街なかに点在する個性的な店舗を歩いて見学した後、バスで北本団地へ向かった。
北本団地商店街の訪問は2年ぶり。その時は工事中だった空き店舗は、コミュニティ拠点『エンバイボックス』と『うえのへや写真館』に生まれ変わっていた(1階は植物と美術工芸作品の販売と陶体験教室や植物を使ったワークショップスペース『エンバイボックス』、2階は写真スタジオ『うえのへや写真館』)。
シャッター通りだった北本団地商店街は、この2年間で7軒のシャッターが開き、賑わいと人の流れを生み出している。この先、どんな店がオープンしていくのか?早くも次回の訪問が楽しみになった。
挑戦を続ける広報誌「広報きたもと」
続いて市役所に移動し、「広報きたもとPR展&トークショー」に参加した。
市の広報誌「広報きたもと」は、本年4月に全国広報コンクールの最高賞である内閣総理大臣賞を受賞。昨年の「屋外の仮設マーケット事業」に関する取り組みに続き、2年連続で自治体広報日本一に輝いた。1964年から続く同コンクールで2年連続で内閣総理大臣賞を受賞したのは2例目という快挙である。
その「広報きたもと」の制作を担当している市長公室シティプロモーション・広報担当の秋葉恵実さんに話を聞いた。
6年前に広報誌の担当になった秋葉さんは、当初、行政情報を載せるのが広報誌だと思っていた。しかし、クオリティーの高さで知られる埼玉県三芳町の広報誌を読み、意識が変わった。
「毎月、どんな市民が出てくるか楽しみになり、私自身が三芳町に興味を持ち始めたんです。こうした広報誌を北本でも作れば、もっと市民も地元を好きになれるんじゃないかと思ったのが、『広報きたもと』を変えるきっかけでした」
まず秋葉さんは三芳町の広報誌を参考にしながら、「広報きたもと」の写真の見せ方やデザインを少しずつ変え始めた。当時は誌面のレイアウトを外注していたが、次第に自らレイアウトを作りたい思いが高まり、2021年5月からはDTP(Desk Top Publishing)ソフトを使って誌面のレイアウト制作を開始。印刷以外の制作過程を広報が一貫して担うことにした。この経験が一つのターニングポイントになった。作業量は増えたが、業者任せではなく自分たちで広報誌を作っている意識が芽生えたのだ。そして、広報誌のあり方を変えることにつながった。
「自分が主体的に広報誌制作に関われるようになった時に、広報誌を作る意味を突き詰めて考えてみたんです。そこで出た答えの一つが『取材』でした。こちらから一方的に物事を伝えるだけでなく、市民の思いを取材を通じて引き出し、記事を書き、誌面を見せにいくという一連の行動を通じて、行政と市民とのつながりを生むことが大事だと思いました」
そうした思いで作り上げたのが、内閣総理大臣賞を受賞した2022年9月号だった。受賞のポイントになった特集のタイトルは「ここがわたしの居るところ」。家庭や職場・学校に次ぐ「第3の居場所」をテーマに、市内のさまざまな居場所や参加者、仕掛け人たちを取材し、7名、3団体のインタビューを全12ページにわたり掲載した。発行後は、ホームページのアクセスが増えたりSNSの投稿が拡散されるなどの反響があり、特集に掲載した居場所を訪れる人が増えた。コンクールの審査員からは、「居場所」というテーマや構成に加え、写真と文章のメリハリが感じられるレイアウトも評価された。自らレイアウト制作に取り組んだ努力が実ったのだ。
こうした受賞に至った背景には、北本が注力しているシティプロモーションの影響が大きかったと、秋葉さんは話す。
「広報誌の目的として『取材』を重視したのは、市民とのつながりを築いていたシティプロモーションの影響が大きいです。そこで培った市民の皆さんとのつながりがあったから、この特集を実現できたと思います。内容も、シティプロモーションの一環で定期開催している「&green market」が出発点ですし、市民と共に北本の魅力を考え、発信していく素地があったので、やりやすかったですね」
今後は広報誌だけでなく、市民のトークや対談をラジオで流したり、リアルで会って話す場も合わせて持ちたいと話す秋葉さん。「広報きたもと」の挑戦は、まだまだ続きそうだ。
取材を終えて
今回の取材では、広報誌「広報きたもと」の取り組みを通じて、北本市のシティプロモーションの進化を感じることができた。取材で市民と対話し、つながりを築いている「広報きたもと」は、シティプロモーションの活動そのものである。こうした行政と住民との関係性が強まれば、地域への愛着が増し、魅力が高まることは間違いない。そうした地域に住みたいと思う人も増えると思う。今後は「広報きたもと」のように、多くの市民が登場して思いを伝えあう広報誌が増えていく予感がした。
(おわり)
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