小規模飲食店が協力してランチを配達 埼玉県熊谷市の「クーマーイーツ!」自粛が続く中で新たな〝飲食コミュニティ〟を立ち上げ

新型コロナウィルス対策の営業自粛、外出自粛に対応して、個人経営の飲食店の多くがテイクアウトを実施した。ただ、はじめてテイクアウトにチャレンジした飲食店も多く、苦労している様子も聞こえてくる。

そんな中、埼玉県熊谷市のカフェなど飲食店が、協力してランチを個人宅や事業所などに配達する「クーマーイーツ!」というプロジェクトに取り組んだ。

4月10日から5月1日の毎週金曜日の開催で、1回目は10店舗、ランチ100食でスタート。5月1日の最終回にはランチ500食まで拡大した。参加店も人気のカフェから老舗の寿司屋まで幅広く、地元の和菓子や採れ立て野菜などもラインアップした。

「今回、飲食コミュニティをつくることができたことが大きな成果」と、中心になって取り組んだ白田和裕さん。その後も母の日の「マーマーイーツ」や、クルマでの受け取り限定の「クーマードライブスルー」など、形を変えながら活動を継続し、現在は、イベント中止などで厳しい状況に置かれているキッチンカーを応援する「クーマーキッチンカー」を第1、3日曜日に開催している。

このプロジェクトを通して生まれた〝飲食コミュニティ〟を核に、熊谷では、将来の地域づくりを見据えた取り組みがスタートしようとしている。

大川原通之(川口支局長)

新規店から老舗まで、地元銘菓も参加

「クーマーイーツ!」はまず、参加店が提供するメニューを、ネット上などで事前に発信。利用者は前日までに注文フォームから食べたい料理を注文する。ジャンルが異なる飲食店のランチを一緒に注文できることも魅力だ。

注文を受けた参加各店は店舗で調理し、当日の昼(11時~12時か、13時~14時のどちらか)に、配達チームが注文があった家庭や職場に届けるという流れだ。「当日の注文だとミスするかもしれないということと、やっぱりフードロスを無くしたいと思って、前日受付にしました」と白田さん。

参加店も前日までに注文が分かれば、仕入れや準備なども安心だ。配達も事前にルートを確認できるため効率的にできる。

熊谷市内の拠点から配達に出発。

料理は基本的には配達のため、どうしても注文できる地域の範囲が限定される。そのため、「クーマーイーツ!」の拠点にしている場所での引き取りも可能にした。さらに最終回では、配達範囲を広げ、遠方の場合は4品以上の注文から配達可能にした。

提供する料理も、菌の繁殖を防ぐため粗熱をとった常温とするなど、衛生対策も徹底。価格は900円、600円、400円の3種類(配達料込)で設定した。参加店については特に要件を定めたわけではなく、「ちょっと面白い人が集まった方が良いな」という程度で、白田さんが声を掛けたお店もあれば、紹介の紹介で参加したお店もある。「ただ、紹介などで参加店を決めていると、料理の種類も結構バランスよくなったりするもんですね」とのことだ。

初回の開催以降、参加を希望するお店も当然現れたが、中でも白田さんが「一番嬉しかった」と語るのが、創業120年の和菓子店の花堤本舗による熊谷銘菓『五家宝』(ごかぼう)の出品。「女将さんがこういう新しい波にも挑戦しようという気持ちがある方で参加していただけました」。

昔からあるお土産品は地元の人はなかなか食べる機会がなかったりするもの。ランチとともに口にする機会となり、新たなニーズに繋がることが期待される。白田さんは「こうした多様な飲食コミュニティを一つ作れたっていうことは、すごい良いなと思う」と語る。

白田和裕さん。

母の日には「マーマーイーツ!」も

白田さんの本業は、熊谷で建築事務所を経営する建築士。最近では例えば出身の草加市で、駅前の木造2階建アパートをリノベーションして、料理教室「キッチンスタジオ・アオイエ」とキッチン付きレンタルスペース「カリイエ」を運営するなど、食を通した人と人が繋がる場づくりに取り組んでいる。

昨年には、現在の地元の熊谷市で、国道沿いで売りに出されていた住宅を購入。ほぼ一人でDIYリフォームを行い、シェアキッチンやシェアオフィス、レンタルスペースを備えた新たな居場所『デンクマル』を今年2月初めにオープンした。

シェアキッチンは菓子製造業の許可を取得しており、マルシェに出店したりネットで販売しているような地元の方々が利用している。スタート時期が新型コロナウィルスに世界全体が対応を迫られはじめた時期と重なってしまったが、公共施設が使えなくなってしまったため、デンクマルのレンタルスペースの利用を希望する人が少なくないそうだ。

草加でも熊谷でも、白田さんの仕事では建築と食を繋げることが多いように見えるが、「こんな時期でもお腹は空くし、美味しいって正義だなって思うんですよね」。

このバッグでランチを運ぶ。

『デンクマル』のオープンの時期から、図らずも新型コロナウィルスによる自粛が続き、「テイクアウト始めました」という飲食店が知り合いも含め増えてきた。ところが、美味しいものを提供していても周知するのが苦手だったりする場合も少なくなかったことから、熊谷周辺でテイクアウトをはじめた飲食店をまとめて紹介するサイトを立ち上げた。

そうしたなかにはデリバリーサービスを行っている飲食店もあったが、コスト等の関係から例えば5000円以上購入の場合に限られているなど、小規模の飲食店には限界があることも感じられた。そこで、飲食店が協力し合ってランチを配達する「クーマーイーツ!」の取り組みをスタートさせたという。

「クーマーイーツ!」の情報発信は、参加店がそれぞれSNS等で発信したり、本紙187号で掲載した地元メディアのFMくまがやで紹介してもらうなどした。当初は、市役所や銀行などにも注文の呼びかけも行うなど、活動を周知していったところ、地元でも注目されるプロジェクトとなった。「利用者さんから『初めて食べました美味しかったです』『自粛が解除されたらお店に行きます』って声があって嬉しかったですね」と白田さん。

ランチのデリバリーサービスとしての「クーマーイーツ!」は当初の予定通り5月1日でいったん終了したが、5月9、10の2日間は、母の日の「マーマーイーツ!」を開催。地元飲食店のオードブルをセットにして、カーネーション付きで1日15食限定で販売した。

また、5月12、14、16日には、ランチのデリバリーではなくクルマでの引き取り限定の「クーマードライブスルー!」も実施した。今後は、ハロウィン、クリスマスなど、この先も様々な仕掛けを考えているようだ。

ランチ引き取りの場合はソーシャルディスタンスで!

熊谷もクルマ社会だが、「クーマーイーツ!」のような新しいデリバリーの仕組みを整えれば、広い駐車場を設ける必要もなく、店舗を構えずに飲食業をはじめる人ももっと増えるだろう。

働き方もテレワークが継続して東京都内に通勤しなくても良くなれば、そうした小規模の飲食店のデリバリーニーズも増えていくのではないか。デリバリーと高齢者の見守りを組み合わせるといった仕組みも考えられる。

キッチンカーを集め、新たなイベントへ

「クーマーイーツ!」から発展して、5月末から毎月第1、3土・日曜日に開催しているのが「クーマーキッチンカー」。近年は、店舗を持たないキッチンカーでの飲食事業者も増えてきている。ランチの時間にオフィス街で出店したり、各種のイベントなどに出店することが多いが、自粛状況の中、出店機会が奪われているのが現状だ。

そこで、苦しんでいるキッチンカーの応援イベントとして、駅前のショッピングセンターの屋上に地元キッチンカーが集合し、地域の人が料理を買って帰るイベントを企画した。

出店準備するキッチンカーの皆さん。

当初は、この取り組みも事前予約制で開催したが、現在は当日注文も可能。駅前に買い物に来た人が、まず目当てのキッチンカーに注文してから買い物に出かけ、帰りに料理を受け取って帰るような場合も少なくないようだ。

「様子を見ながら、例えば買い物中に子どもさんを預かったり、ワークショップなどもできれば」と白田さん。新たな形の食を中心とした地域づくりのアイデアが、これからも生まれてきそうだ。

(おわり)

>「クーマーイーツ!」Facebookページ

>「クーマーイーツ!」インスタグラム

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