地域の新たなメディアとして「FMクマガヤ」誕生 コミュニティFMが地域の人々をつなぐ

ラジオの人気が高まっている。ラジオの魅力は話し手との距離が近いこと、音声だけのため情報量が限られることから的確に内容を把握できること、テレビなどの映像メディアと比べコストが掛からないことから、比較的スポンサー等の外部の意向に左右されずに番組が作られることなどが挙げられる。

現在はスマホのアプリで全国各局のラジオ番組を聞くことも可能で、過去の放送を聞くことも出来る。SNSが情報発信の中心となった現在、パーソナリティとリスナーが放送中にツイッターでやり取りすることもあるなど、ネットとの相性も案外良い。

そんな中、2019年4月に、埼玉県北部にコミュニティFM局「FMクマガヤ」が開局した。開局から3カ月。地域の情報発信を担う新たなメディアとして地元で存在感を増している。

【大川原通之(川口支局長)】

※この記事は、地域づくり情報誌『かがり火』187号(2019年6月25日発行)に掲載されたものを、WEB用に若干修正したものです。

防災・防犯情報も大きな役割の一つ

コミュニティFMは市町村単位の狭い範囲をエリアとする放送局で1992年に制度化され、現在、全国に約330局ある。「FMクマガヤ」は、埼玉県熊谷市と行田市が放送エリア。毎朝7時から夜10時まで23人のパーソナリティが、地元の様々な情報を発信している。

開局とともにスタートしたのが、FMクマガヤの会員システム「cluBクマガヤ」だ。入会金や年会費は無料。発行されたメンバーズカードを「cluBクマガヤ」加盟店で見せると、様々な特典が得られる。

スタート時点の加盟店は75店・社。飲食店のほか美容室や工務店、不動産会社、自動車販売店、介護講座、葬儀社、地域活動をしているNPOなど、地域を支える多様なプレーヤーが加盟している。加盟店料は月額1万円。FMクマガヤから、熊谷・行田エリアで頑張っている事業者に対して、加盟店への加入を依頼。事業者側が企画に賛同して初めて加入が成立する。

加盟店の情報と特典は、3カ月に1回発行されるフリーペーパー「cluBクマガヤマガジン」に毎回掲載。さらに、毎週1回60秒の生CMが流されるほか、パーソナリティが月に1度加盟店を訪問してリポートする。

つまり、会員はラジオで情報を得て、加盟店で特典をゲット。加盟店はFMクマガヤを応援するとともに、ラジオ放送とフリーペーパーで情報が発信でき、集客にも繋がるという仕組みだ。FMクマガヤが一方的に放送を発信するのではなく、地域住民と様々な地域のプレーヤーとのハブとして情報を送受信するイメージだ。

この小さなスタジオから、地域の人を結ぶ情報が発信されている。

FMクマガヤ(株)社長の宇野元英さんによると、開局して以降、放送での紹介を聞いてお店を訪れたという人が増えたそう。それだけでなく、番組で取り上げた加盟店同士の交流も生まれているという。

「本音トークほど影響力があると思います。ラジオは耳から生の声が届くので、うそがつけない」と宇野さん。だからこそ、リスナーを、放送で紹介されたお店に『行ってみよう』と思わせる力がラジオにはあるのかもしれない。

ただ、声で情報を発信するには、話し手の存在はとても重要だ。開局に当たっては、広くパーソナリティを募集し、50人以上を面接。応募者の中には大手放送局のアナウンサーなどプロの技術を持っている人もいたが、必ずしも採用されてはいない。宇野さんは「それより個性的な方、よりその人らしさが表れている方にお願いしようと思いました」と採用時を振り返る。面接を経て研修を終えた方が現在、パーソナリティとして番組を担当している。

コミュニティFMは防災・防犯情報の発信も大きな役割の一つ。阪神・淡路大震災や東日本大震災の発生後には、全国でコミュニティFMが数多く設立されている。FMクマガヤも、熊谷市と2月13日に「防犯・防災情報の緊急放送に関する協定」を締結。行田市とも同様の協定を締結する予定で、災害の際の避難勧告や避難所開設の情報等を緊急放送することになっている。

ミニFMからコミュニティFMに

FMクマガヤの前身は、2011年5月にスタートした、コミュニティFMよりさらに小さいミニFM局「ヤバイラジオ」だ。

熊谷市出身の宇野さんは若い頃に劇団に入団。ギターを持って全国を旅していたという話しをしていたところ、パンクバンドに誘われメンバーに。プロデビューしたもののバンドはその後解散してしまうが、ミュージシャン仲間4人と自分たちで情報発信しようとフリーペーパーを作成。ファンとのオフ会で配布した。2009年8月のことだった。

200部刷ったが、定員は50人。残り150部を地元の楽器店やライブハウスにも置いてもらったところ、徐々に読者が増え、置いてくれる場所もおよそ200カ所となり、7号まで発行した。このフリーペーパーの読者のなかに「ラジオをつくりたい」という方がいた。宇野さんは「フリーペーパーの音バージョン。紙では伝えられないことが発信できるかも」と考え、2010年1月からミニFM設立に動き出す。

翌2011年4月1日にスタートする予定で動いていたがしかし、スタート直前の3月11日に東日本大震災が発生。スタートを見送ることに。ところが、ボランティアをしていた知人から、被災地ではコミュニティラジオ局が大きな役割を果たしていたことを聞く。

「いずれじゃなくて今やらなくてはいけないんじゃないか」――。当初の予定から一カ月遅れの5月1日に、ミニFM「ヤバイラジオ」が開局した。

“ラジオは耳から生の声が届くので、うそがつけない”という、宇野元英さん。

「ヤバイラジオ」は基本的には出演者がやりたいことを実現するコンセプトで発信しているが、「いずれミニFMで経験を積んでコミュニティFMに」と考えていた。日本一暑い熊谷で夏の暑さに関するリポートや、高齢者の方々のイベントのリポートなどはリスナーや地元自治体等からの反応もあり、「コミュニティFMとしての在り方はなんとなく見えてきていた」という。

2016年には、空き店舗だった父親が経営していた古物商の建物を改装し、ラジオスタジオ&コミュニティサロン「Kyuno(キューノ)」としてオープン。ラジオ収録だけでなく、紙芝居、ライブなどのイベントや、人気ショップの期間限定出店、子育てサークルの活動場所など、様々な地域の活動に利用されている。

こうした地元密着の活動が熊谷市の目にもとまり、2013年には、市商業観光課の非常勤職員にも採用された。ただ、「コミュニティFMを運営していく具体的な方法論が6年間見つけられなかった」という。

やりたいことを発信するメディアに

コミュニティFMを立ち上げるための課題は、どうビジネスにしていくかということ。商売にならなければ持続的に活動することは難しい。実際、全国的には撤退するコミュニティFMも少なくない。

2017年3月、栃木県宇都宮市にコミュニティFM「ミヤラジ」が開局した。ここで会員を募集し、加盟店とつなぐ仕組みを導入していた。「会員制度を聞いて、これだと思いました」。

詳しく聞いてみると、最初に導入したのは山口県宇部市のコミュニティFM「FMきらら」だという。ここを立ち上げた井上悟さんは、これまで全国25局のコミュニティFMの立ち上げを支援してきた。

宇野さんも井上さんからアドバイスを受け、コミュニティFMの立ち上げに向けて具体的に動き出し、2018年4月には会社を設立。株主説明会を開いたところ「思った以上に市民の反応が良くて」、また、「Kyuno」で地域づくりなどについて毎週開いていた会議の参加者からも出資したいという人も続出した。

準備も整い、2018年11月に総務省に免許申請したところ、防災の観点から行田市もカバーすることも可能だという話しがあり、熊谷・行田の2市をエリアとするコミュニティFMとして「FMクマガヤ」が誕生した。

それぞれがやりたいことを発信する「FMクマガヤ」。写真中央のパーソナリティに囲まれているのが宇野さん。

一方で、出演者がやりたいことを実現する「ヤバイラジオ」も活動を継続している。

「やっぱり、やりたいことをやれた方が幸せですよね」と宇野さん。そのためには「みんなやりたいことを発するべき」という。

実は、宇野さんと「ミヤラジ」をつないだのは宇野さんが所属していたバンドの元ファン。井上さんを紹介したのもライブで共演したバンドの宇部市出身のドラマーだった。

やりたいことを発信する場があったから、協力者も出資者も集まってきた。好きな物・好きな事を発信すれば、それを好きな人が集まり、自然発生のコミュニティが生まれる。

番組内であるバンドの曲をかけたところ、そのバンドのファンが「どんなラジオ局なんだろう」と、わざわざスタジオを覗きに来たという出来事もあったという。

やりたいことは、誰かに伝えなければ協力してくれる人も現れない。やりたいことを発信すれば、何かが起こる。そこにコミュニティメディアの本質があるのかもしれない。

(おわり)

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