【連載 イタリア支局長だより】第6話 プリーゴの猫

日本とイタリアは、遠いようで実は近い気がする。情に厚いところ、家族や友人などのコミュニティを大切にするところ、人々がグルメなところ、演歌調の歌が人気なところ、などだ。そんな中、特に近いというか似ていると思うのが、猫文化である。例えばドイツでは、通りで猫を見かけることが全くない。それに比べイタリアでは、人に甘えまくる猫を、よく見かける。餌付けする住民が多いことも一因であろう。

山間部のセッローネ村にある義父の実家にも、野良猫が生息している。この家は空き家になって久しいが、以前、プリーゴという名の中年男性が住んでいた。震災で自分の家が壊れたので、修理する期間、滞在していたのだ。プリーゴは冗談好きで、周りからよくからかわれる、いじられキャラだった。私も妻も彼とよく冗談を交わし合っていた。

セッローネ村の風景(1)
セッローネ村の風景(2)
セッローネ村の風景(3)
セッローネ村の風景 (4)

プリーゴが住んでいる間、どこからかグレーの猫が家を訪れるようになった。プリーゴはその猫に「レレッタ」という変わった名前を付け、餌付けするようになった。一人暮らしだった彼にとって、レレッタは可愛い同居人だった。

家の修理が終わり、プリーゴが義父の家を引き払った後も、そのグレーの猫は健在だった。メス猫だったので、妊娠して2匹の子猫が生まれた。その後も子孫は増え続け、どこからともなく他の猫も集まってきて、最近では10匹以上の野良猫が生息している。みんなやせ細ってはいるが、しぶとく生き抜いている。もっと頻繁に通って餌をあげたいが、私の家からは15kmほど離れているので、毎日通うのは難しい。周辺の住民が夕食の残りなんかをあげているから、この先もしぶとく生き続けるであろうが、悲しいことに姿を現さなくなった猫もいる。

しかしまぁ、1匹だったのが、よくもここまで増えたもんだ。「責任を取ってくれ」と半分本気の冗談を交えながら、プリーゴにもその様を見せてあげたいが、悲しいことに彼は去年、癌で他界してしまった。まだ50手前ぐらいの歳だった。陽気で愉快な人だったが、お酒とタバコが大好きで、それが癌の原因になったのであろう。

生前、イタリアよりも雇用環境の良いドイツに移住したがっていたプリーゴ。移住を応援してあげれば良かったな、と今も後悔している。彼が天国でワイングラス片手に、愛する猫たちに甘えられながら有意義な隠居生活を送っていることを願うばかりだ。

(イタリア フォリーニョ支局長 ジョー)