スポーツを核とした地域づくりを考える

はじめに

シンクタンクに勤務している中で、高校時代にサッカーをやっていたこともあり、スポーツが何か役立つのではないかと考えていたのは25年ほど前でした。

しかし、当時のスポーツは、1984年のロス五輪が民間主体で開催されたり、Jリーグが創設されるようになったものの、一般的に体育の一環として認識されていました。

このような中で、当時の国土庁の担当者と一緒に企画・提案して、わが国で最初のスポーツを活かした地域活性化に関する調査研究(注1)を行いました。

あれから四半世紀が過ぎた今日、スポーツ基本法が制定され、スポーツ庁が創設されるようになりました。

しかしながら、いまだスポーツと体育とが混同され、体育の一環としてスポーツが行われているところも少なくありません。

このようなことから、「スポーツを活かした地域づくり、地域の活性化」とはどのようなことなのか、あるいはその推進組織としての「スポーツコミッション」とはどのようなものなのかについて述べたいと思います。

【一般財団法人日本スポーツコミッション理事長 木田悟(東京杉並支局)】

写真1:NPO出雲スポーツ振興21が主催する親子体験教室。

1.なぜ、スポーツを活かした地域の活性化なのか

(1)スポーツの意味

本来スポーツは、ラテン語のde portare(デ・ポルターレ:日常生活から離れる)に由来する言葉で、遊んだり、気分転換を図るなど、楽しい気分を発散させるという意味であるとのことです。

このスポーツは、英国貴族のレジャーとして発祥し、その後の産業革命を経て、労働者のレクリエーションとして定着してきました。

一方、USAにおけるスポーツは、当初から移民などの労働者自らが行った楽しみを伴う活動として発達し、結果として観るスポーツが盛んとなったことから、エンターテインメントとしてのスポーツが盛んになってきたと言われています。

(2)わが国におけるスポーツとは

一方、わが国における「スポーツ」は、明治期に導入されて以降、体育教育の一環として行われてきました。

しかし、近年の国際化の進展とともに、欧米と同様にスポーツと体育は別の活動と理解されつつあるとともに、スポーツは多様な役割や効果を有することが分かってきました。

このようなことからわが国におけるスポーツは、今後の少子高齢社会の進展の中で、競技スポーツから、健康増進に資するスポーツ、楽しんで行うスポーツ、観て楽しむスポーツ、あるいは支援するスポーツなどがより盛んになってくると言われています。

しかしながら行政においては、スポーツを所掌する部局がいまだ教育委員会の体育課などである自治体も多く、十分な活用が図られているとは言えません。

2.スポーツイベント開催による効果とは

(1)スポーツイベント開催による社会的効果とは

スポーツを行うこと、観ること、支援することによる効果については、スポーツの振興をはじめ、健康増進、交流促進、コミュニティ形成、あるいは産業の振興などさまざまな視点から捉えることができます。

しかしここでは、来年以降3カ年にわたって国内で行われる国際的スポーツイベント(注2)による効果について述べることとします。

わが国では、スポーツイベントを開催することで地域に経済的効果をもたらす、と言われてきましたが、体育として発達してきたわが国のスポーツには、経済的効果以外の社会的効果が数多く存在することが分かってきました。

このようなことから筆者は、サッカーの国際的イベントである1998年のFIFAワールドカップフランス大会のキャンプ地および2002年にわが国と韓国との共催で行われたFIFAワールドカップ日韓大会の日本キャンプ地を対象としてアンケート・ヒアリング調査および現地調査を行い、それまで明確でなかった社会的効果を表1に示すような8項目として整理しました。

表1 社会的効果の項目区分とその概要

出典:マッセOSAKA研究紀要第21号「スポーツ活用戦略」P18、(公財)大阪府市町村振興協会マッセOSAKA、平成30年3月

(2)今後のスポーツイベント開催による効果の捉え方

スポーツイベントの開催を契機として地域の活性化を図っていくためには、前記のような効果を一過性ではなく継続させるとともに、その発現を基本に、いかに経済的効果に結び付けていくかにあると言えます。

また、社会が成熟したわが国では、道路や鉄道等の交通インフラをはじめ、スタジアムなどのスポーツインフラもそれなりに整備されており、施設整備等による直接的経済効果や波及効果もこれまでのようには期待できないのも事実です。

このようなことから、今後のスポーツイベントの開催による効果は、交流や地域情報の発信、あるいはインバウンドなどの拡大による社会的効果を数多く発現させることが求められると言えます。そしてその結果を経済的効果にもつなげていくことが重要と考えます。

そのためには、スポーツイベントは誰のために、何のために開催するのかなどの目標や目的を再認識するとともに、地域を十分に理解し、地域が有する資源などと連携していくことが最も重要と考えます。

図1 社会的効果と経済的効果の関係

3.地域の活性化に資する組織としてのスポーツコミッション

(1)スポーツコミッションとは

スポーツを活用して地域の活性化に資する組織として、フィルムコミッション(注3)をベースに筆者を含む(一財)日本スポーツコミッションが提唱したのが、わが国独自の「スポーツコミッション(注4)」(SC)です。

わが国におけるスポーツは教育的要素が強いとともに、スポーツ施設も体育施設を含めて公的施設が多く、欧米のスポーツとはその位置づけが異なっています。

このようなことから、わが国におけるSCを「公的な活動により地域の活性化に資する活動をする組織」として位置づけています。

また、SCに求められる機能は、地域がどのような特色や資源を有し、どのような課題を抱えているかによって異なると考えますが、地域を活性化させていくためには、行政のみならず、地域住民などによるボランティアやNPO組織、あるいは企業などの三者が連携していくことが重要です。

そして、この三者をつなぎ連携させていくこと、あるいは地域内外の各組織を連携させ、地域にとって有用な存在とさせていくこともSCの役割とも言えます。

このようにSCには、個人や組織を有機的につないでいくという「リエゾン機能」を有する組織としていくことが求められます。

(2)わが国におけるSCのあり方

SCは、地域の状況に合わせて設立していくことが望まれているものの、すべての自治体において「スポーツ」という切り口が求められているわけではありません。あるいは、必ずしも一気に多様な機能を有する組織の設立が可能となるわけでもありません。

さらに、わが国においてSCとして先端的な活動を展開しているNPO出雲スポーツ振興21(出雲SS21)では、その設立にあたって、組織を設立しようとした行政マンおよび組織を自立させ、地域の活性化に資する組織にまで育てた民側の人材がいたことなど、それぞれの立場でのキーマンの存在があります。

さらに、この出雲SS21が現在までの組織となるには、十数年の年月を有していることも忘れてはいけません。

図2 スポーツコミッションの構成

(3)スポーツコミッションの活動事例

SCとして活動している組織の事例を見ると、前述した出雲SS21では、スポーツを通してさまざまな地域の活性化に資する活動を行っています。

冒頭の写真1は地域住民の家族の絆を強くすることを目的とした「親子体験教室」の例です。

また、志摩SCでは、トライアスロンを行っていますが、地域唯一の幹線道路を数時間封鎖してもクレームが出ないなど、お祭り好きな地域住民と一体となって開催しています(写真2)

写真2:(一社)志摩SCが主催する地域と連携したトライアスロン大会。

さらに、東北海道SCでは、毎年カナダから高校生を招聘して地元高校生とアイスホッケー大会を開催するなどの国際交流を実施しています(写真3)

写真3:東北海道SCが主催する、アイスホッケーを通したカナダの高校生との交流活動。

以上のように、SCはさまざまな地域の資源を活用したスポーツ関連活動を行い、地域づくり、地域の活性化に貢献しています。

4.スポーツを活かした地域の活性化とは

(1)スポーツを活かした地域活性化の考え方

現在のわが国では、高齢者や障がい者等がスポーツを通じて楽しみながら身体活動を行った結果、健康増進や生きがいを創出していくということがあります。

また、薄れていく地域の絆をスポーツを通して再生させたり、地域のアイデンティティを醸成したり、さまざまな交流を行っていくなど、スポーツのもつ効果を十二分に発現させ、人や地域の活性化を図っていくことが可能となってきています。

しかしながら、前述したように多くの自治体においては、スポーツを活かした地域の活性化を経済的視点からのみ捉えるケースが多くなっているます。

独自の文化を育み、自然との調和などを優先してきたわが国は近年、欧米のみならず近隣諸国の経済成長に伴うインバウンドが増大してきています。

このようなことから、スポーツの有するさまざまな効果や役割を活用して、インバウンドと地域の人々との交流促進などを積極的に行っていくことも重要な視点となってきています。

一方、近年のプロ化の進展やスポーツ産業の振興などもスポーツを活かした地域の活性化に資することから、それらについても検討していく必要があります。

とは言うものの、地域全体の活性化に資するようにしていくことは、地域内の人や企業等の活性化が重要で、外部からの人や企業等に頼ったのでは意味がありません。

地域にさまざまな社会的効果を発現させ、それが地域経済の活性化にもつながっていかなければ意味がないと考えます。

(2)スポーツを活かした地域活性化の事例

スポーツを活かして地域の活性化を図っている事例として、2002年のFIFAワールドカップ日韓大会開催時のクロアチアチームのキャンプ地となった十日町市では、毎年クロアチアカップなどのサッカー大会を開いたり、クロアチアチームがキャンプしたりするなどさまざまな交流を展開しています。

特に、今回のFIFAワールドカップロシア大会においてもクロアチアチームが決勝に進出したことから、パブリックビューイングを開催するなど、市民挙げて応援していました(写真4)

写真4:十日町市が交流しているクロアチアチームを応援するパブリックビューイング。

また、広島県の北広島町では、町を挙げて障がい者スポーツであるアンプティサッカーを支援して、障がい者との交流のみならず、コミュニティの形成などに資するようにしています(写真5)

写真5:北広島町が支援する障がい者スポーツとしてのアンプティサッカー。

5.今後に向けて

スポーツイベントを開催すれば、多大な経済的効果が発現する時代は終焉し、今後はスポーツを行い、観て、支援するなどにより、数多くの社会的効果を発現させるために、地域の自然環境を含む文化・歴史、あるいは関連産業などの地域独自の資源と連携していくことが求められます。

そして、その結果として、いかにして社会的効果のみならず経済的効果の発現につなげ、地域の活性化に結び付けていくかが重要であると考えます。

要は、人や地域それぞれが「スポーツ」をキーワードとしたさまざまな活動において、いかにして地域の活性化に資する独自の工夫と活動を行っていくかなのです。

【注】
注1:
「スポーツを核とした地域活性化に関する調査―スポーツフロンティアシティ21―」、国土庁・㈶日本システム開発研究所、1994・10
注2: 2019年にわが国の12都市で開催されるラグビーワールドカップ2019、2020年に東京を中心に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会、2021年に関西を中心とした8府県で開催されるワールドマスターズゲームズ2021関西を言う。
注3:フィルムコミッションは1940年代にUSAにおいて映像制作支援やロケ誘致などを目的に設立され、わが国においては、①非営利公的機関、②One Stop Ser viceの提供、③作品を選ばないという3原則がある。
注4:(一財)日本スポーツコミッションの商標で、「スポーツを活用した地域づくりを推進することにより地域の活性化を図ることを目的に設立された組織」としている。

【参考文献】
(1)木田悟:「地域におけるスポーツイベントの社会的効果に関する研究——サッカーワールドカップのキャンプ地を中心として——」日本大学提出博士論文、2011.3
(2)「野球とニューヨーク」、佐伯和夫、中央公論新社、2011
(3)「多摩・島しょ地域におけるスポーツを活用した地域活性化に関する調査研究〜スポーツコミッションの機能に着目して〜」、(公財)東京市町村自治調査会、2017.3
(4)「スポーツで地域を拓く」、木田悟・高橋義雄・藤口光紀編著、(一財)東京大学出版会、2013
(5)木田悟・小嶋勝衛:サッカーワールドカップフランス大会における地域活性化の実体——サッカーワールドカップ開催を契機とした地域活性化に関する研究 その1——、日本建築学会技術報告集第18号、2003、PP.319-324
(6)木田悟・小嶋勝衛・岩住希能:「サッカーワールドカップ大会における社会的効果に関する考察——サッカーワールドカップ開催を契機とした地域活性化に関する研究 その2——」日本建築学会技術報告集第23号、2006、PP.427-432

(おわり)

※この記事は、雑誌『かがり火』182号(2018年8月25日発行)掲載の内容に、若干の修正を加えたものです。

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