長野県木曽町の大目富美雄さん(「木曽馬の里」支局長)から情報を得て、今年の7月30日(土)、31日(日)に開催された「第1回開田高原おんたけマルシェ」を見学してきた。このイベントは、長野県の各地でマルシェ(マーケット)やイベントを企画・開催している「デイズ」という団体が実行委員となり、大目さんが事務局長を務める地域づくり団体「開田高原倶楽部」が後援して実現したもの。民間の力を借りて、地域単独では難しかったイベントを実現した経緯について、大目さんに話を聞いた。
継続困難だった「そば祭り」に代えて、マルシェを開催
おんたけマルシェ会場の「木曽馬の里」は、真正面に御嶽山を望める芝生広場。私が行った日は晴天で、御嶽山のどっしりした山容が間近に迫る雄大な景色が楽しめた。この抜群のロケーションに、ハンドメイド品の販売、リラクゼーション、占い、フリーマーケット、ワークショップなど、各地から集まった約20店舗が一同に介した。
ここでは3年前まで、開田高原特産の蕎麦をテーマにした「そば祭り」が、毎年10月に行われていた。「開田高原倶楽部」では、そば祭りのメインイベント「早食い競争」を多大な労力をかけて運営し、集客に貢献していた。しかし、コロナ禍でそば祭りは中断。コロナ収束後も、人手不足、負担の大きさ、そば屋の高齢化などにより、イベント復活が困難な状況であった。
そんな折、大目さんのもとに「木曽町でマルシェを開催したい」というオファーが、知人を介して届く。オファーしたのは、長野県の中信・南信地域でイベントやマルシェを開催している「デイズ」代表の堀内さん。大目さんは、そば祭りを開催していた「木曽馬の里」の芝生広場を会場に提案し、堀内さんと合意した。実現に向けては、大目さんと「開田高原倶楽部」が地域との調整役を務め、バックアップした。
主催者と出店者の「地域を盛り上げたい」意識が一致
このマルシェの大きな特長は、開催する手間とコストがかからない点だ。出店者は各自でテントを設営し、店を構えるので、会場設営はほぼ不要。宣伝はネットやSNS、口コミに頼っているが、何回か開催するうちに集客も増えていき、地域イベントとして定着することが多いという。
マルシェを主催する「デイズ」は、営利を目的としない任意団体で、わずか2~3名のスタッフでイベントを運営している。出店料は1,000円台と、従来のイベントと比べて破格。出店者も、売上より地域貢献の意識が高い方々ばかりで、毎回募集をかけると、一定数が集まるそうだ。今回も、県内では比較的交通の便が悪い開田高原にもかかわらず、約20店舗が集まった。
「デイズ」は出店者としても「占いブース」を出していて、経費や手間を抑えつつ自らも売上もあげることで、ペイできないまでもイベントを継続できている様子だった。県内のあちこちでマルシェを開催できているのも、主催者と出店者の意識が「地域貢献」という点で一致し、収益を求めていない点が大きい。代表の堀内さんも「地域を盛り上げたくてやっているだけ」と話す。
地域で開催される祭りやイベントは、行政が補助金を出しているか、民間のイベント会社が介入して著名人の講演会やコンサートなどで集客し、グッズや飲食などの集金装置をあちこちに仕掛けるのが一般的だ。ただ地域としては、イベントを一つ開催するにも多くの行政職員や地域ボランティアが関わり、人手、時間、コストがかかる。また、行政が関わると斬新で柔軟なイベント運営がどうしても難しくなる。
今回は、イベントを開催したくてもできなかった地域(開田高原)と、木曽地域でマルシェを開催したかった主催者(デイズ)の思惑が一致したことになる。
大目さんは、「今回は初開催だったので、宣伝が行き届かなかったり、休憩場所が少なかったりと課題が残った。マルシェは今後も開催するので、次回は改善して集客を増やしたい」と語ってくれた。これ以外にも、こうした民間主導のイベントをもっと増やしていきたいそうだ。
見学を終えて
大目さんが住む木曽町開田高原は、2004年に合併して木曽町になるまで木曽郡開田村だった。しかし、合併時に約2,000人いた人口は、今は1,400人まで減少。御嶽山や木曽馬をはじめとする観光資源は豊富だが人口減少は止まらず、コロナで観光も打撃を受けた。イベントを仕掛けようにも負担が大きく、なかなか一歩を踏み出せない状況だった。
こうした逆境の中で、主催者、出店者、地域の3者が経済合理性の枠を外して協力しあった今回の「おんたけマルシェ」は、その一歩を踏み出す突破口になった気がした。今後も第2回、第3回と継続するうちに、この場を活用して何かをやろうとする独自の動きやアイデアが生まれるかもしれない。
今回のマルシェは、「木曽の地でマルシェをやりたい」という主催者の思いが発端となり実現したが、民間が「経済合理性を抜きにしても何かやりたい」と思えるような舞台作り(もしくはPR)が、今の地域に求められていると感じた。