認知症の高齢者が好きだった音楽を聴くと元気に。NPO法人エコロジーオンライン(上岡裕理事長)の「オトトカラダ」プロジェクトへの挑戦

栃木県佐野市に本部を置くNPO法人エコロジーオンラインは、活動を始めて17年。ライターや編集者、マンガ家、カメラマン、ミュージシャン、カフェオーナー、建築家などが参加してさまざまな環境保全活動に取り組んでいて、この夏からは、「オトトカラダ」という事業をスタートした。

中心的な活動がMusic & Memoryというアメリカから始まった認知症ケアの取り組み。認知症の患者さんに昔好きだった音楽を携帯型音楽プレーヤーで聴いてもらい、心や身体を少しずつ活発化させていくプログラムである。

エコロジーオンラインを中心に日本でのパイロット事業として、栃木県の医療法人の協力のもと、9月末から老人介護施設に入所した認知症の患者さんに、好きだった音楽を聴いてもらい始めた。

環境活動のNPOが、なぜ認知症に関する取り組みをスタートしたかといえば、キーワードは“持続可能性”と言えるだろう。これからの高齢化社会を見据えた時、家族あるいは自分自身どうしても認知症と向き合わざるを得ない時代が来る。

エコロジーオンラインの「オトトカラダ」の取り組みは、少しずつ全国に波及している。

【大川原通之(日本住宅新聞編集長)】

※この記事は、地域づくり情報誌『かがり火』178号(2017年12月25日発行)掲載の内容に、若干の修正を加えたものです。

上映会を通じて全国に拡大

エコロジーオンラインは上岡裕理事長がソニーミュージックエンタテインメントの出身ということもあり、これまで、音楽を通して環境メッセージを発信する仕事を多く手掛けてきた。

例えば、ミュージシャンの坂本龍一さんたちと手掛けたイベント「artists’ power」、全国にあるライブハウスZeppで使用する電力をグリーン化する取り組み等々。

ライブハウスやレコーディングスタジオ、イベントなどにグリーン電力の活用を呼び掛けるなかで風力発電を手掛けている事業者と出会い、2016年には、石川県珠洲市で開かれた「第19回全国風サミットin珠洲」(地域内に風力発電施設を持つ自治体が主体となって開催している)をきっかけに、坂本龍一さんや佐野元春さん、Dreams Come True、絢香さん、奥田民生さんなどが風にまつわる楽曲を提供したCD「Music Go!green 風の国から」をリリースした。

また、熊本地震の被災地に、5kWのソーラーパネルと37kWhの蓄電池を装備しウイングを開けるとステージになる「ソーラーパワートラック」を派遣。

再生可能エネルギーを手掛ける全国の仲間たちから寄せられた支援物資をトラックの荷台に載せ、現地ではソーラーパワートラックのステージで熊本出身の八代亜紀さんのライブを開催した。

こうした音楽と環境に関する取り組みの流れから、2016年4月には坂本龍一さんが手掛けた「commons10健康音楽」という、音楽と健康をテーマにしたイベントに協力することになり、〝健康〟もより意識するようになる。

その一方で、上岡理事長はお父様が認知症で施設に入所し、また、お母様も認知症の初期であると診断されるという状況となった。

「そんな時に、ミュージシャンのかの香織さんから紹介されたのが、アメリカのMusic & Memoryの活動を追ったドキュメンタリー映画『パーソナルソング』でした」(上岡理事長)。

Music & Memoryの活動は、認知症の方それぞれの人生に合わせて音楽をチョイスし、携帯型音楽プレーヤーに収めて聴いてもらうというもの。

この映画で描かれている、自分のこともほとんど思い出せなかった女性が若いころに流行していた曲を聴いたとたんに、自分が働き始めたころの様子を饒舌に語り出したり、ほとんどしゃべりもしなかった男性が音楽を聴き始めると一緒に歌い始める場面は感動的だ。

Music & Memoryの活動は現在では全米各地の州政府と連携しているほか、オーストラリアやオランダなど世界10カ国に取り組みが広がっているという。

高齢者に音楽を聴いてもらうと、さまざまな反応がある。

「映画『パーソナルソング』は数年前にも日本で上映されて話題になっていますが、アメリカのMusic & Memoryの本部に問い合わせてみると、まだ日本では取り組まれていないとのこと。そこで、われわれが日本国内で試行的に実践してみようと」(上岡理事長)。

活動の手始めとして、賛同者の輪を広げるために『パーソナルソング』の全国での上映会の開催を呼び掛けた。ホームページやFacebook等で発信したところ、続々と開催希望が集まり、8月に東京で最初の上映会を開催した。

その後も地元の佐野のほか、関心を持った人たちを中心に京都、大阪、名古屋、新潟、沖縄などで上映会が開催されるなど、急速に賛同者の輪を広げている。

上映会では映画の上映のほか、医師などの専門家によるトークや意見交換会も開催する。

こうした活動が少しずつ話題になり、ラジオ特番、単行本、認知症に効くCDの企画などへと展開している。

佐野市の試行的な取り組みの中から、例えば物忘れのような認知症の中核症状への効果はまだ不確かなものの、怒りやすいなどの周辺症状は抑えられそうだといった効果は少しずつ見えてきているようだ。

「例えば、怒りやすさを抑制できれば、興奮して転倒するといった2次的な事故も防ぐことにつながるかもしれない。また、音楽を身近にすることでスタッフにも良い変化が表れるといったことも期待できそうです」と上岡理事長。

「もちろん、音楽の好みは人によってさまざまで、その患者さんに効く音楽をいかに見つけるかが重要です。でも、医療現場のスタッフがそれを探すのは現実的に難しい。その部分を、音楽に携わる人との付き合いが多く、ポピュラーミュージックに詳しい仲間が多いエコロジーオンラインが楽曲をセレクトする役割を担うという仕組みも考えられそうです」と語る。

もちろん、日本では初めてのサービスのため、資金的な負担をどうするか、高齢者施設のプログラムにどのように組み込むのかなど、持続可能な活動にするためには多くのハードルが待ち受けているだろう。

ただ、認知症に対する音楽の効果を実証していくことは、高齢化が急速に進む日本社会にとって非常に重要な取り組みであることは間違いない。

映画『パーソナルソング』を上岡理事長に紹介したかの香織さんは、一般財団法人オーバーザレインボウ基金を立ち上げ、「ワンソング・プロジェクト」という活動を進めている。

「ワンソング・プロジェクト」は、ターミナルケア・ホスピスの現場に、最後に聴きたい歌を届けることで豊かな時間を過ごしてもらおうという活動で、エコロジーオンラインもオーバーザレインボウ基金の活動を支援している。

「ワンソング・プロジェクト」は、Music & Memoryの認知症ケアの取り組みを参考にしているとのことから、映画『パーソナルソング』を紹介してもらうことにつながった。

こうした人と人とのつながりが、新たな取り組みへと広がっていくのが、エコロジーオンラインの大きな特徴と言える。

「こうして認知症の方々のケアを始めると、自分も認知症と遠くない存在だということを痛感します」と現在57歳の上岡理事長。

「65歳以上の5分の1の方が認知症になるといわれており、認知症は20年かけて進むといわれますから、自分のなかではすでに時計の針が進んでいるかもしれません」と語る。

現在、前期高齢者となった団塊の世代以降の世代は、歌謡曲や演歌、フォーク、ロック、ポップスなど多様なポピュラーミュージックを身近なものとして育ってきている。

「自分の親や認知症のお年寄りが豊かに過ごせるようにというだけでなく、自分たち世代が認知症になった時にも楽しく暮らせるようにするための環境整備ということでもあります」と言う。

『パーソナルソング』上映会の様子。

小さな発電所で再生エネを身近に

エコロジーオンラインは17年にわたるNPO活動の中で、いろいろな分野で活動を展開してきた。

筆者は、東日本大震災の少し前に、共通の友人を通してFacebookで上岡理事長と知り合うことになり、特にここ数年はエコロジーオンラインの活動の現場のいくつかに立ち会ってきた。

駆け足になるが、エコロジーオンラインが東日本大震災以降に取り組んできた活動のいくつかを紹介したい。

自然エネルギーに関するプロジェクトでは、例えば東京都との協働で、お台場潮風公園に10kWの太陽光発電に蓄電池を併設した太陽光発電施設〝ひだまり~な〟を、2007年に開設。

音楽イベントやチャリティーオークションなどを通じ、また多くの市民の寄付から生まれた本格的な協働発電所だったが、この発電所をきっかけに全国の幼稚園、保育園に太陽光発電を寄付する活動へと発展している。

こうした活動を通して上岡理事長には再生可能エネルギー事業についての講演の依頼が寄せられるようになった。

「ある講演会で若い女性から、『脱原発のために何かしたいのですが、アパートに住んでいて太陽光発電を設置できない。お金に余裕もないから市民発電所への出資も難しく、どうしたらよいでしょう』と質問されました」(上岡理事長)。

福島第一原子力発電所の事故をきっかけに再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が2012年に誕生し、全国にメガソーラーが数多く設置されたが、必ずしも一般市民に身近なものになっているわけではない。

上岡理事長は「再生可能エネルギーの普及への道が大きく開かれたのに、一般の人に縁遠いものになってしまっては元も子もない。彼女のような純粋な思いを持っている人に関わり続けてもらうためにはどうしたらよいのか」と考えるようになったという。

Music&Memoryに取り組む上岡理事長(右)。

そんな時、東日本大震災の際に福島県飯舘村にガイガーカウンターを寄付した仲間のシステムトークスというメーカーが、携帯70台を充電できる能力を持つランチバッグ程度の大きさのバッテリー「スゴイバッテリー」という商品を開発した。

そこで、このバッテリーに、40Wのソーラーパネルを組み合わせて『ナノ発電所』として販売を始めた。

このバッテリーは、あえて通常の交流コンセントを付けていない。交流コンセントを使うと太陽光発電で創った直流電力を交流に変えることになり、その分、電力ロスが生じる。

しかし、そのまま直流のUSBや直流12Vのプラグで活用してもらえればロスは生じないし、USBや直流12Vの家電製品は小さいものが多いため、おのずと省エネ型の機器とセットになり、省エネの普及啓発につながっていくだろうと考えてのことだ。

この『ナノ発電所』は、仙台市の小型太陽光発電の補助対象にもなっている。防災・減災用にも活用したいという声も多く、自然災害の被災地に寄付する活動等も行われている。

間伐材活用を全国に発信

エコロジーオンラインは2016年には地元佐野市で、農業法人(株)カラフルファームを設立し、本格的に農業に取り組み始めた。

農業分野ではこれまでも、日本初のオーガニック和綿Tシャツを作るなど、循環型農業を支援してきた。この取り組みは東日本大震災の被災地でのコットン栽培に発展している。

環境保護に関わるNPO法人として、「営利事業を手掛ける際にはいろいろな配慮が必要」と上岡理事長。「例えば、手掛ける営利事業によって環境や人権を侵害してしまえば、それまでの信頼も一気に失ってしまいます」という。

しかし、経済活動を否定してしまえば、この社会の中で理解を得る可能性を閉ざしてしまうことになりかねない。これはエコロジーオンラインに限らず、国内外のNPO・NGOが抱える共通の課題と言える。

国連を中心に広がっている「持続可能な開発」という方向性は、こうしたジレンマに対応した考え方だ。

例えば、日本では少子高齢化による人口減で、第一次産業を経済の柱とする地方の市町村の持続可能性も損なわれている。

そうした課題に対応するための新しい農業を模索する場がカラフルファームだ。

現在、トルコキキョウやソバ、エゴマ、ジャガイモなどを栽培。農福連携も進め、子ども、学生、高齢者、障がい者など誰もが農作業によって得られる多彩な効用を享受できる〝ユニバーサル農業〟を目指している。

また、日本の地域の活性化への取り組みとしては、〝Forest Good〟というブランドによる国内の森林の間伐・間伐材利用を推進する活動も大きな柱の一つだ。

2015年に間伐に関連する組織・団体で構成する「間伐・間伐材利用推進ネットワーク」を設立。毎年実施されている間伐・間伐材利用コンクールの事務局も担当している。

このコンクールで入賞した取り組み同士の連携も始まっており、毎年のコンクールが間伐・間伐材利用に取り組む人たちの交流の場として、エコロジーオンラインがそれを仲介する役割も果たしている。

間伐・間伐材利用について発信する取り組みとしては、女子美術大学の学生と連携して「フォレストファミリー」というキャラクターを製作。学生たちは間伐をモチーフに身体を動かす〝間伐体操〟も考案し、その映像をホームページにアップしている。

この女子美術大学との連携もユニークで、同大学のヒーリング表現領域とメディア表現領域の3年生を対象に『産学連携によるキャラクター開発プロジェクト』という授業をコーディネート。

「美術大学におけるアートとデザインの専門教育の中から生まれる女性のクリエーティブな感性と、多くの課題を抱える自治体、企業のコラボレーションによって、新たな発想のキャラクター開発の可能性を探ること」が授業の目的だとしている。

この授業の中で林野庁も協力して生まれたのが「フォレストファミリー」というキャラクターである。

エコロジーオンラインはこれまでも活動の中で、環境省や林野庁などと「官民協働」の取り組みを進めてきている。

間伐材の取り組みで連携している林野庁との「官民協働」の先に、「学」(女子美術大学)をつなぎ、これまでも環境をテーマにしたキャラクター事業を手掛けてきたエコロジーオンラインが、「産」の役割も果たす。

上岡理事長は、「女子美術大学から生まれたキャラクターをビジネスに変えることで、『産学官民』の取り組みとして成長させていきたい」と目を輝かせる。

マダガスカルの森林を守る取り組み

エコロジーオンラインの森林を守る取り組みは、国内だけでなく海外にも舞台を広げている。マダガスカルの森を守るための商品開発の取り組みだ。

数年前、ナノ発電所など自然エネルギー機器をケニアに寄付する活動を通して国連環境計画のスタッフと知り合い、「貧困に苦しむ地域には電気のインフラがないが、自然エネルギーはインフラを必要としないため、貧困対策にも有効」との示唆を受けたことをきっかけに、里山エネルギーという会社を設立。途上国での小さな自然エネルギーの普及を視野に動き始めた。

その取り組みに興味を持った人たちからの声掛けで、マダガスカルでの自然エネルギー支援事業が始まった。

ロケットクッキングストーブを使って、燃焼効率の悪いマダガスカルの調理スタイルを省エネ型にすることや、廃棄されているオガクズ、もみ殻を固形化して調理に活用することで、薪、炭の消費量を減らすことを狙う事業を計画。

このアイデアはJICAの「中小企業海外展開支援事業~基礎調査~」に採択され、上岡理事長や大和田正勝事務局長が事業の可能性を探る調査のため3月に現地を訪問した。

マダガスカルでの上岡理事長。ソーラークッカーなども紹介した。

上岡理事長によると「マダガスカルの家庭では家事に薪や炭を使用しているため、それらを入手する目的で森林の過度な伐採が行われています。日本で言うところの里山や人工林での森林経営が行われていないため、人口が集中する地域では、はげ山ばかりになっていました」

これから、里山エネルギーとJICAの現地事務所が連携して、もみ殻やオガクズなどの廃棄物をエコ燃料に変え、それを燃やせる調理用のロケットクッキングストーブを開発することや、貧しい地域に「里山エネルギースクール」を開校して森林を破壊しないエコなエネルギーづくりを指導していく計画だ。

地元佐野出身の田中正造の言葉を胸に

このようにエコロジーオンラインの取り組みは多岐にわたるが、活動を進める背景の一つに、地元佐野市出身の田中正造の存在がある。

エコロジーオンラインは2013年に、田中正造没後100年特別企画として「百年を経て蘇る田中正造の伝言~田中正造没後100年記念プロジェクト~」を実施した。

ホームページで田中正造が残した言葉を伝える企画だが、最初の伝言として上岡理事長は、

真の文明ハ
山を荒さず
川を荒さず
村を破らず
人を殺さゞるべし

という言葉を選んだ。

この言葉はさらに

物質上、人工人為の進歩のみを以てせバ社会ハ暗黒なり。
デンキ開ケテ世間暗夜となれり
然れども物質の進歩を怖るゝ勿れ。
この進歩より更ニ数歩すゝめたる天然及無形の精神的の発達をすゝめバ、所謂文質彬々知徳兼備なり

と続く。

まさに、福島第一原発事故以降の日本、あるいは地球温暖化が進む世界の姿と、進むべき道を示唆しているように思える。

以上、エコロジーオンラインの近年の活動を振り返ってみたが、もちろんすべてを網羅しているわけではない。

最近では若手のメンバーも成長してきており、カラフルファームなどの地元に根差した取り組みと、マダガスカル支援などの外に広がる活動が、それぞれさらに活発になるだろう。

一方で、上岡理事長のもとには、いつもさまざまな相談や提案が舞い込んでいる。

持続可能な社会の実現に向けて、これからもまた新たな取り組みに挑戦していくことだろう。

※エコロジーオンラインの活動はWEBサイトで発信しています。
https://www.eco-online.org/

(おわり)

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