閉校した学校の校歌を100年先まで保存 オーバーザレインボウ基金・かの香織さん

【文/川口支局長 大川原通之(日本住宅新聞編集長)】

※この記事は、地域づくり情報誌『かがり火』191号(2020年2月25日発行)に掲載されたものを、WEB用に修正したものです。

東日本大震災の被災地で、校歌をキーワードに世代を超えて語り合う

音楽家でもあり、また宮城県栗原市の造り酒屋「はさまや酒造店」12代目でもあるかの香織さんは、代表理事を務める一般財団法人オーバーザレインボウ基金の事業として、東日本大震災で被災したために廃校になってしまった小学校の校歌を復刻し、100年以上先まで保存する取り組みを昨年から始めた。

校歌は地域住民が世代を超えて一緒に歌うことができる歌だが、学校が消滅するとともに失われてしまう。この校歌復刻プロジェクトでは、地域の様々な世代が集まり、学校を中心に地域の思い出を語り合いながら、校歌を歌い保存することで、地域をつなげていこうという取り組みだ。

プロジェクトの第一弾は2016年に宮城県東松島市立宮野森小学校として統廃合された、野蒜小学校と宮戸小学校の2校の校歌。2019年1月26日に野蒜市民センターでワークショップを開催し、様々な年代の卒業生およそ80人が、両校の元教諭のピアノ伴奏に合わせて、それぞれの校歌を歌い録音した。

校歌保存のための録音風景。

ワークショップではまず、学校での思い出を語り合ったりすることからスタートした。中学生や高校生、大学生が祖父母世代から、今まで知らなかった学校での思い出話を聞くなど大いに盛り上がり、「話が止まらず歌わないで終っちゃうんじゃないかというぐらいでした(笑)」とオーバーザレインボウ基金事務局担当者は振り返る。

中には、学校が統合されてしまったために、卒業式で元の小学校の校歌が歌えなかったという中学生も参加したそうだ。学校や校歌に対する思い入れも人それぞれ。世代によっても異なる。そうした地域の様々な人々が世代を超えて歌える歌の一つが校歌でもある。

学校は子どもたちが学んだりする場であるとともに、地域の大切な柱でもある。かのさんは「校歌をキーワードに、時代背景も違う多様な世代の方々が、歴史を語り合い、共有することで未来につなげる機会にすることができれば」と話す。

被災地の学校支援がきっかけ

かのさんが校歌復刻プロジェクトを構想したのは、東日本大震災後に取り組んできた被災地での学校支援がきっかけだったという。

かのさんなど、宮城県にゆかりのある音楽家や文化人が集まって活動している「みやぎびっきの会」は、震災前から宮城県内の学校の音楽活動を支援している。学校現場では楽器が壊れても修理する予算がなく、吹奏楽部の活動がそのまま停滞してしまうことが少なくない。

そこで、「みやぎびっきの会」がチャリティコンサートを開催。その収益金で楽器の修理を支援する取り組みを行っている。東日本大震災のあとは、活動範囲を岩手県、福島県に拡大。津波で壊れた楽器の修理や滅失した楽器の購入などを積極的に支援してきた。

そうした中、被災地でのチャリティ活動では、みんなで歌える歌の一つとして、校歌をリクエストされることが少なくなかったという。また、2013年に閉校となった石巻市立大川中学校の卒業式では、校歌をオルゴールにして提供した。「とても喜んでもらえて、そのことが胸に楔のように印象に残り、この事業を考えるきっかけになりました」と、かのさんは語る。

「廃校になった学校の校歌を残したい」と言う、かの香織さん。

震災によって地域のシンボルでもある学校が閉校となる例が少なくない。それは同時に、校歌も歌われる機会が無くなってしまうということだ。そこで、校歌の曲や詞、編曲の記録が失われてしまう前に採取し、新たに録音して100年後も残るようにデジタル保存するこのプロジェクトを立ち上げた。

オーバーザレインボウ基金では、「みやぎびっきの会」の取り組みを引き継ぐ形で東日本大震災の被災地の子どもたちをハワイに招く研修活動を開催している。このプロジェクトの卒業生の中に東松島出身の学生がいたことが縁となって、東松島市立の野蒜小学校と宮戸小学校の2校を第一弾として、ワークショップを開催することになったという。

地域の実情に合わせ、地域主体で

ワークショップ開催に当たって大事にしていることは、地域に住まわれている方々や学校関係者が一緒に作り楽しんで参加して頂けること。各学校や地域の置かれている状況や背景も異なるため、それぞれの地域や学校に合った形をとって開催してゆきたいと思っているという。

第2弾は、2013年3月に閉校となった山元町立中浜小学校の校歌を復刻した。中浜小学校は震災時に児童や教職員約90人が屋上に避難したが、津波が2階までおしよせ、周辺地域は校舎だけが残された状態となった。2013年に同町立坂元小学校に統合されたが、校舎は震災の教訓を伝えていくため、〝震災遺構〟として、被災当時のままの状態で保存されることになっている。こうした背景もあって、2019年12月1日に開催した第2弾ワークショップは山元町と地域住民と一緒に開催することができた。

当日は校歌を作曲した音楽家の箕輪響さんも参加。校歌斉唱を指導してもらうなど、第1弾ともまた違ったワークショップとなった。

思い出話で盛り上がるワークショップ。

第3弾は今年2月23日、第1弾と同じ東松島市立の小野小学校と浜市小学校の校歌を復刻保存する。今回は統合された学区の自治会長や元PTA会長をはじめとした地元の方々や卒業生、教育委員会、教職員による実行委員会を立ち上げ、実行委員会を中心にワークショップを開催する計画だ。

校歌は高音質・高解像度(ハイレゾリューション)のデジタル録音を行う。WEBサイトでは合唱、伴奏を聴くことができるほか、ワークショップの様子を伝えるショートムービーも掲載している。WEBに掲載することで、当日参加できなかった方、様々な理由で故郷を遠く離れた方にも復刻した校歌を届けることができる。希望者には合唱と伴奏を収録したCDを無料で配布している。

これまでも校歌を録音する企画は多くあったようだが、地域住民や卒業生等、統廃合学区に住まわれている方々が参加する「校歌の復刻保存録音」は初めてということもあり、自治体や地域、教職員や卒業生が主体になる、かのさんたちのプロジェクトに賛同して積極的に協力してくれたという。

「全国で自然災害が発生していますし、そのために統廃合される学校も出てくるかもしれません。そうでなくても閉校する学校も増えている。将来的には宮城県にとどまらず、必要とする声をいただけば、この校歌復刻プロジェクトを全国に広げていければ」と、かのさん。実際、ニュース等でこの活動を知った他県の教育関係者などから、問い合わせも届いているそうだ。

(おわり)

 >オーバーザレインボウ基金WEBサイト

『かがり火』定期購読のお申し込み

まちやむらを元気にするノウハウ満載の『かがり火』が自宅に届く!「定期購読」をぜひご利用ください。『かがり火』は隔月刊の地域づくり情報誌です(書店では販売しておりません)。みなさまのご講読をお待ちしております。

年間予約購読料(年6回配本+支局長名鑑) 9,000円(送料、消費税込み)

お申し込みはこちら