空き家・空き地と狭い道路を一体的に再生する「つるおかランド・バンク」

全国どこに行っても空き家や空き地が目に付く。人口が減っているのだから当たり前ともいえるのだが、その当たり前を放置しておくと、まちは不便になり、活気を失って行く。

都市のコンパクト化の掛け声はあちこちで聞かれるが、実際に進んでいるのは虫食い状態のスポンジ化である。人口増加時代には無秩序に都市が拡大するスプロール化が問題になったが、その反対の無秩序な縮小がスポンジ化である。スポンジ化は都市の新たな病といっていい。

スプロール化に対して無策だったのと同様、スポンジ化に対しても妙案は見つかっていないが、これに地道に挑戦しているのは、鶴岡市の特定非営利活動法人「つるおかランド・バンク」(廣瀬大治理事長)である。

小規模ながら、一つ一つ着実に問題を解決していくランド・バンク方式の取り組みは全国のモデルになりそうだ。

【ジャーナリスト 松本克夫】

※この記事は、雑誌『かがり火』182号(2018年8月25日発行)の内容に、若干の修正を加えたものです。

2040年に空き家が1万棟に?

鶴岡市がいち早くランド・バンク方式を取り入れた背景には、同市特有の事情もある。

鶴岡市は2005年に周辺6町村と合併し、今では人口約13万、世帯数約5万の都市になっている。しかし、人口減少とともに空き家が増加しており、2015年時点の調査では空き家は2806棟に達している。

その5年前の2010年と比べると毎年100棟ペースで増加したことになる。増加ペースは加速しており、このままいけば、2040年には空き家は少なくとも1万棟に達する計算になるという。

仮にその半分を解体するとしても、5000区画の空き地が生じることになる。空き家空き地の有効利用を考えないと、それこそスポンジ都市になってしまう。ところが、鶴岡市の場合、その有効利用が簡単ではない。

戦災に遭わなかったのは幸運だったが、その代わり、城下町以来の古い町割がそのまま残った。狭い道路が多く、折れ曲がったり袋小路になっていたりする。

この6月に理事長に就任したばかりの宅建業の廣瀬大治さん(38)は、「城周辺のつづら折りの道が一般の道路になっていたり、田んぼのあぜ道だったところがそのまま道路になっていたりします。道路がこのままですと、人が抜けると、空き家が増えます」と心配する。

城周辺の中心部から空洞化が進んでしまうというわけである。

市の中心部の空洞化に対応する「つるおかランド・バンク」の廣瀬大治理事長。

モデル地区でまちづくり計画

危機感を抱いた市は、2011年に民間の有識者を入れてランド・バンク研究会を発足させた。

同研究会は、中心部に近い住宅地の神明町をモデル地区に選び、何ができるか研究してみた。空き家の実態を調べるとともに、空き家を活用したまちづくり計画を考えてみた。

廣瀬さんによると、「2メートル前後のあぜ道をそのまま道路にしたために、救急車も入れないところがありました。車が入れないところから、人がいなくなっています。広大な空き地もありました」という状態だった。

空き家は50棟あったが、多くは大規模な修繕をしないと再利用は困難なものだった。

住民に加わってもらい、4回にわたりワークショップを開催した。住民からは、「大規模な空き家はコミュニティセンターとして再利用する」「小規模な空き家は娯楽施設・図書館として活用できる」「街道沿いの空き家はポケットパークとして整備する」などの提案が出された。

同研究会は、それらを反映したまちづくり計画を立てて、地図上に表現してみた。しかし、これは一種のシミュレーションで、実際には権利関係の調整をしなければ計画は動き出さない。

そうした仕事を請負う実行組織として、同研究会を母体に2013年に設立したのがNPOの「つるおかランド・バンク」である。

もっとも、ランド・バンク的な仕事は、その前から始めていた。例えば、神明町で20年以上空き家になっていた危険家屋の解体である。

近隣の住民は皆困っていたが、土地所有者が2名、地上権者が3名、建物所有者が5名という権利関係が複雑な案件だったため、話が進まなかった。ランド・バンク研究会のメンバーが粘り強くその調整をした結果、解体にまで漕ぎつけた。この案件の解決は、山形県の2012年の「やまがた公益大賞」を受賞した。

「やまがた公益大賞受賞」を受賞した危険家屋の解体前。

解体後。

市場性のない物件を処理

つるおかランド・バンクは、空き家空き地を有効利用するうえで知恵やノウハウを持つ専門家集団である。

宅建業や建設業の経営者、建築士、土地家屋調査士、司法書士、行政書士らが加わっている。市の担当者や地元銀行の担当者も理事や監事として参加している。

ランド・バンク研究会当時から関わっている、都市計画に詳しい饗場伸・首都大学東京教授も理事の1人である。参加は任意だから、市内の宅建業66社のうちランド・バンクの会員になっているのは4分の1の16社しかいない。

廣瀬さんは、「宅建業者全員がNPOに入ってほしいのですが、どの業者も人手が余っているわけではないので協力したくてもできない人もいますし、手間だけかかってほとんどお金にならないのでは本業が圧迫されてしまい本末転倒だという人もいます」というわけで、業界こぞっての取り組みにはなっていない。

そもそも、「空き家が無数にあるのに、宅建業としては金にならない仕事が多いというのがNPOを発想したスタート地点」(廣瀬さん)だから、当然もうけ話にはならない。

ランド・バンクにはいろいろな役割があるが、中心は「ランドバンク事業」(小規模連鎖型区画再編事業)。周囲の空き家空き地や接している狭い道路と一体的に検討し、有効利用策を探るのがこの方式の特徴である。再開発や区画整理のような大規模な面的事業とは違って、問題物件を一つ一つ処理していく点的都市修復手法である。

ランド・バンクは、まず依頼された物件は市場性があるか否かの判定から始める。市場性があれば、宅建業者に任せればいい。しかし、中には、接道条件(幅員4メートル以上に2メートル以上接する)を満たしていないものや、土地が狭小だったり、不整形だったりして、有効利用が難しいものもある。

そうした単独では市場性のない物件を周囲の物件や道路とうまく組み合わせて処理するのがランド・バンクの役割である。

例えば、参考図のB宅の空き家の解体と土地売却を依頼されたとする。更地にしても、接している道路が狭いから、市場性はない。そこで、隣接するA宅とC宅に働きかけて、安い価格でB宅の土地を両者に売却する。

広くなったA、C宅の土地のうち、道路に接する部分をセットバックしてもらえば、狭あい道路が解消し、A、C宅の土地も利用しやすくなる。

「こういうことは利害関係の薄いNPOだからやれることです。民間ですと、1戸売ってしまえばそれで終わりです。行政ですと、私有財産に口出しすることはできません」と廣瀬さんはNPOの効用を説明する。

もっと多くの空き家や空き地が絡むケースや、土地の形状や接道の仕方が複雑なケースもあるが、手法はこの応用である。

「ランドバンク事業の一例」(参考図)

低い仲介手数料が悩み

図上演習としてはこれで一件落着、めでたしめでたしだが、実際には相続などで権利関係が複雑になり、関係者の同意を得るまでに途方もなく時間がかかる場合もある。

B宅の土地のように条件の悪い土地の仲介手数料は低いだろうから、労力ばかり費やし、割に合わない仕事になる可能性が高い。

「やまがた公益大賞」の対象になった危険家屋の解体でも、法定の報酬はわずか4.1万円だったという。

ランド・バンクが2014年4月から今年2月までに受けた相談件数は847件で、そのうち市場性のない問題物件が166件あったが、78件の契約が成立したという。つまり有効利用につながったということだ。

その中に売買で成約した物件が67件あったが、そのほぼ半分は売買価格が200万円以下という低い価格だった。

200万円以下の場合、従来仲介手数料の上限は価格の5パーセントだったが、今年1月施行の法改正で、空き家のような低価格の物件の場合、依頼者から受け取れる仲介手数料の上限が税別18万円に引き上げられた。

宅建業者にとっては多少助かる仕組みにはなったが、それでも煩雑な業務とかかる手間を考えると赤字になりがちだ。

NPOが関わらなければならない物件があると、会員になっている業者に割り振って担当してもらうが、赤字の案件ばかりではやがて引き受け手がいなくなりかねない。

そこで、ランド・バンクは、赤字になった物件の場合には、後に紹介する「つるおかランド・バンクファンド」からコーディネート活動助成として上限30万円の助成をしている。

中心商店街の銀座通りでもシャッターの下りた店が目立つようになった。

移住促進にも貢献する空き家バンク

NPOには、「ランドバンク事業」以外にもいくつかの役割がある。その一つが「空き家バンク」事業。空き家空き地を貸したい・活用したいという人と、借りたい・利用したいという人とのマッチング作業である。今年2月までに空き家バンクに登録された物件が216件ある。その3分の1ほどが成約に至っている。

鶴岡市は移住コーディネーターを配置するなど移住者の受け入れ促進に力を入れているが、移住希望者が住まいを見つけやすい空き家バンクの存在もそれに一役買っている。

空き家バンクを含め総合的に努力した結果だが、鶴岡市は『田舎暮らしの本』(宝島社)の「日本『住みたい』田舎ベストランキング」の上位の常連である。2018年版では、人口10万以上の「大きなまち」で総合8位に入り、「若者世代が住みたい部門」では3位になった。

移住希望者に人気が高い鶴岡市だが、それでも、郊外には活用に至らない問題物件が多い。

廣瀬さんは、「空き家バンクは、中心部からは遠い山間部や沿岸部の物件をたくさん抱えています。民間では売れない物件です。移住者もある程度利便性のいいところに住みたいですから、マッチングがうまくいく例は少ししかありません。山間部は雪の問題があるし、沿岸部は塩害があります。古民家ですと、寒くて一冬で出てしまう人もいます」と難しい事情を説明する。

空き家をリフォームして、ほかの目的に使うのが「空き家コンバージョン」事業。「空き家を売りたくはないが、使ってもらいたいという家主がいた場合に対応するものです。用途変更のリフォームをして、シェアハウスにしたり、学童保育の場所にしたりします。山形大学の留学生用にシェアハウスにした例もあります。空き家を町内会で譲り受けて増築し、独居高齢者が引きこもらないような居場所づくりに生かしているところもあります」(同)

という具合に、用途変更により多彩な有効活用法が生まれている。

「つるおかランド・バンクファンド」の運用も、ランド・バンクの仕事である。同ファンドは、市と一般財団法人民間都市開発推進機構と関連団体が共同で出資した3000万円のファンドである。

同ファンドは、コーディネート活動助成のほか、空き家を地域コミュニティ施設に整備した場合や、行き止まり道路を通り抜け道路にしたり、町内会が空き地を多目的広場にした場合などに助成している。

廣瀬さんは、「もともと使い切るためのファンドですが、このままいくと恐らく足りなくなると思います」と見ている。ファンドの増設が必要になりそうだ。

このほか、特に遠方居住の家主から空き家の定期巡回を請け負う「空き家管理受託」事業もあり、ランド・バンクは20棟ほどを管理している。

複雑な権利関係のある問題物件を現地調査する会員たち。

地元への発信が課題

ランド・バンクは、7年目を迎えたが、いくつもの課題を抱えている。

第一にランド・バンク自体の経営が厳しい。職員は2人抱えているだけだが、民間の業者が採算割れになると判断して引き受けない案件ばかり扱っているから、赤字に陥るのは仕方がないともいえる。

廣瀬さん自身も、「赤字ですから、皆さん半ばボランティアでやっています。私も無報酬でやっています」という状態だ。公的な資金が入らないと、活動継続が危うくなりそうだ。

地元の住民への周知も不足している。ランド・バンクは市と共催で、年3回空き家空き地問題の相談会を開催している。

毎回盛況だが、その割に市民のランド・バンク認知度はいまひとつである。国土交通省をはじめ外部にはかなり知られ、視察も多いというのに、肝心の「ローカルに対する発信ができていません」(同)と反省する。

中心商店街の銀座通りですら空き地や空き店舗が生じているほどだから、商店会や町内会との連携も課題になる。

廣瀬さんは、「理事数を増やして、町内会や商店会から責任者に入ってもらうことも考えられます」という。

ランド・バンク単独では困難だが、強すぎる所有権を制限して、老朽家屋を取り壊しやすくするとか、隣接の所有者の確認が簡単にできるようにするといった法や制度の改正も求めていかなければならない。

鶴岡市に続き、静岡県掛川市でも今年2月にNPOの「かけがわランド・バンク」が発足した。

各地で「ランド・バンク」的な経験が積み重ねられれば、スポンジ化に対処するのにふさわしい法や制度が見えてくるだろう。

(おわり)

「つるおかランド・バンク」ホームページ

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