【BOOK GUIDE】大谷悠著『都市の<隙間>からまちをつくろう』(学芸出版社)

本誌193号に寄稿された大谷悠さんが、著書を出されました。ドイツのライプツィヒで10年近くまちづくりに携わってきた体験を基にした本です。

旧東ドイツに属するライプツィヒは90年のドイツ統一以降、人口が急減し、「縮小都市」と呼ばれました。市は、人口減少に合わせて、所有者に助成金を出して古い建物を取り壊し、緑地に変える戦略を採用しました。しかし、まちの景観を形作ってきた古い建物が失われることを憂慮した市民はNPO法人ハウスハルテンを立ち上げ、「家守の家」プログラムを始めました。ハウスハルテンの仲介で、建物所有者と利用者が暫定利用契約を結ぶものです。

利用者は維持管理を引き受ける代わりに、無償で建物を利用できます。2010年代に入り、若者と外国人の流入で市の人口は急増に転じます。建物の不動産価値も上昇し、無償での利用は難しくなります。そこで、利用者が共同で物件を買い取る「ハウスプロジェクト」が始まりました。

「家守の家」や「ハウスプロジェクト」は、住民の多彩な活動を生み出しました。空き家を利用して子どもたちが思い思いの絵本を作る「本の子ども」、廃虚となった工場を取りつぶして誰でも使える中庭にした「ロースマルクト通りの中庭」、旧塗料工場を勝手に占拠してライブやイベントをしていたアーティストなどがやがて市から土地・建物を買い取った「ギーサー16」などが紹介されています。中には、衰退した商店街の建物5棟を買い取り、ストリートフェスティバルの開催や市から受託した地区マネジメント事業までしている「クンツシュトッフェ」のような団体もあります。

大谷さんはハウスハルテンの支援を受け、空き家を利用して仲間と「日本の家」を立ち上げました。初めは、日本を紹介する催しや「空き家・空き地を活用したまちづくり」をテーマにした国際ワークショップなどをしていましたが、やがて誰でも参加できる「ごはんの会」を思い付きます。

参加者有志が料理を作り、一緒に食事しながら歓談するものです。週に2、3回の開催ですが、参加者は月に500人前後にもなりました。運営には、ドイツ人はもちろん、他の欧州人や中東出身者も加わるようになりました。職種も、学生、学者、フリーター、失業者、アーティスト、難民申請者などいろいろな人たちです。

大谷さんは、不動産市場や都市計画から見放された空き家や空き地を「都市の<隙間>」と呼びます。都市には「素人」が共に活動しコミュニケーションする場として<隙間>の存在が重要であり、ライプツィヒが若者を引き付けたのは自由に使える空間があったからだといいます。

大谷さんがインタビューした市の都市再生・住宅整備局長も、「ライプツィヒの強みは自由です。どんな人でも、自分の夢を実現できる都市であるということです」と言っています。

空き家・空き地の増加に手を焼いている自治体は日本にもたくさんあります。ドイツの都市とは随分と事情は違いますが、空き家や空き地を「カネなし、コネなし、ノウハウなし」の若者が夢をかなえるための<隙間>と捉え直してみてはいかがでしょうか。

(ジャーナリスト・松本克夫)

大谷悠著『都市の<隙間>からまちをつくろう』(学芸出版社)

※この記事は、地域づくり情報誌『かがり火』196号(2020年12月25日発行)掲載の内容に、若干の修正を加えたものです。

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