【第15回】「フェアじゃない現実と向き合う」就労支援員/社会福祉士・田中佑樹さん

今回ご登場いただくのは、障害者就労支援協会「コンフィデンス日本橋」で、障害者の就労支援に携わる田中佑樹さんです。何と言っても面白いのは、彼の仕事に対する姿勢。「就労支援員」として働きながらも、「働きたくない人は働かなくていいと思っています」と言い切る、実にユニークで柔軟な精神の持ち主なのです。

彼とは大学院で知り合ったのですが、「インド放浪経験がある」という共通点からすぐに仲良くなりました。「現代社会は必然的に排除者を生み出している」という視点に立ち、その構造を見据えながら、さまざまな支援に取り組んでいる田中さん。そんな彼の思想に迫りたいと思います。

ちなみに僕は彼のことを、ちょっとイタリア風に「タナキーニ」というあだ名で呼んでおりまして(笑)、本文でもそのまま収録しております。決して新しいパスタ料理とかではないのでご注意ください。

※この記事は、地域づくり情報誌『かがり火』190号(2019年12月25日発行)に掲載されたものを、WEB用に若干修正したものです。

【プロフィール】

田中 佑樹(たなか ゆうき) 就労支援員/社会福祉士。立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科比較組織ネットワーク学専攻を修了。2012年、一般社団法人障害者就労支援協会「コンフィデンス日本橋」(就労移行支援事業所)で勤務を開始。障害者雇用をしている企業のサポートのほか、就労支援の現場では、知的障害や発達障害の方を数多く担当し、企業就労につなげる。就労後も障害のある方が長く働けるように、各機関や家族と連携を取りながら定着支援を実施。2018年、子どもに知的・発達障害があっても就労を目指すネットワーク「カルミアサロン」の立ち上げに関わる。

杉原 学(すぎはら まなぶ) 1977年大阪生まれ。四天王寺国際仏教大学中退。4年間のフリーター生活を経て、株式会社日本経済広告社にコピーライターとして入社。5年半で退社し、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科修士課程修了、博士課程中退。哲学専攻。現在は「時間と人間との関係」について研究中。単著に杉原白秋著『考えない論』(アルマット/幻冬舎)、共著に内山節編著『半市場経済』(第三章「存在感のある時間を求めて」執筆、角川新書)など。日本時間学会会員。高等遊民会議世話人。

障害者との関わり

杉原 今はどんな仕事してるの?

田中 障害者の就労支援ですね。本人の希望を聞きながら、企業と障害のある方をつなげて、その後の定着の支援もします。障害者雇用が初めてという企業もあるので、そういう場合は一緒に仕事を創り出していったり、雇用管理を考えたり、「どうすれば力が発揮できるか」っていう環境を整える仕事もやります。

杉原 なるほど。何でその仕事を選んだの?

田中 もともと障害のある方との関わりはけっこうあって。中学生の時に、特別支援学級にいた方とやりとりしたり、オーストラリアで障害のある方と一緒に養蜂所で働いたりとか。大学院に通っているころは、ボランティアで若者の支援とか、ホームレスの支援をしていたんですけど、その時にやっぱり障害の部分が大きいんだなっていうのを感じて。

杉原 というと?

田中 ある若者支援の組織にいた時に、利用者のサンプルをとらせてもらったんです。300人ぐらいいたのかな。そのうちの3分の1ぐらいは、病気の診断が出ていたり、あるいは何かしらの障害の疑いがある人だったんです。それでうまく社会と関われなかったり、就職ができなかったりっていうのがあったので。それで障害のある方の就労支援に寄っていった感じはありますね。

杉原 なるほど。

田中 あと、学校のクラスにちょっと変わってる人って絶対いるじゃないですか。障害のあるなしにかかわらず。

杉原 いる。

田中 そういう人って、中にはいじめられてしまう人もいるじゃないですか。もしいじめられているのを見たら、ちゃんと「この人の個性はこうだよ」って分かるように接するようにしたりとか。で、クラスで一目置かれるような存在にしていくっていうのが楽しくて。

杉原 すごいスキルやな。相当レベル高いよそれ。

田中 もちろん、そんなこと全員にできるわけじゃないですよ。ただ、みんながいじめていたとしても、俺がうまく接してそれが面白いと、「あれ、そっちの関わり方のほうが正解なんじゃないか」みたいな感じになって(笑)。でもそれは、その人がかわいそうだからするんじゃなくて、そうしたほうがみんなにメリットがあるから。本気でいじめちゃうと、いじめたほうも、いじめられたほうもメリットがないし、見ているほうも気分が悪いんで。全体の利益を考えると、上手に関わって、お互いが仲良くなったりしていくのがいいかなと。

杉原 すごいな。まさにお笑いの「ツッコミ」の神髄というか。例えばある人の話が明らかにスベっていても、そこに最適なツッコミを入れることによって、「その人がすげー面白いこと言った!」みたいにできるのよな。その人の面白さを引き出したり、発見する力がツッコミにはあって。だから誰かが言ったことに対して、「お前おもろないわ」とか言ってる人は全然センスなくて。

田中 ないですね。

杉原 それに対して絶妙なツッコミを入れることによって面白くするのがお笑いのセンスやのに、全然わかってないねん。

田中 ははは。そのへんの考え方は、結果的に障害者の就労支援につながってきているんだろうなと。今思えば、仲間はずれにされている人と一緒にいたり、その人をまたみんなとつないだりっていうのをけっこう無意識でやっていたのかな。で、何でそれができるかっていうと、一人が好きだから。自分がどこのグループにも属していないっていう感覚があって。所属するのが好きな人は、そういうのは多分できない。やっぱりその中で敵対とかが生まれちゃうから。僕は一人でいるのがベースにあって、たまに誰かといるみたいなのが一番いいので。

杉原 山にいて、たまに里に下りてくるみたいな(笑)。

田中 そうそう、そんな感じで(笑)。それが理想ですね。

一児の父でもある田中さん。娘の椋子ちゃんと。

理想とフェアな関係性

杉原 仲間はずれにされたり、いじめられたりしている人を放っとかれへん気持ちがあるの?

田中 全然ないんですよね、そういうのが。何ていうのかな……。そういう人たちが社会で楽しく生きられたほうが絶対いいっていう、理想みたいなものがあるんだと思います。だから感情的に「かわいそう」とかは一切思わないです。

杉原 みんなで誰かをいじめたりしていたら、「そんなんおもろないやん」と。

田中 そう、「おもろないやん」みたいな感じです。おもろないし、さっきの話だと、やっぱりメリットがないんです。

杉原 「誰も幸せにならない」ってことやな。

田中 全然ならないですね。

杉原 何かフェアよな、タナキーニは。偏見がないっていうか。

田中 あ、フェアがいいです。うん。自分にとって大事なのは、「社会においてそれが平等であるかどうか」っていうことで、基本的にその理念に沿って関わりたい。ちょっと語弊があるかもしれないですけど、相手に障害があるからといって、こっちは人間性の部分での関わり方まで変えることはしなくて。もちろん障害の特性によって関わり方は変えるけど、人としては対等なんで。

杉原 良くも悪くも特別扱いしないっていうか。

田中 しないんですよ。まあ、それが他人の目にどう映るか分からないけど。

「コンフィデンス日本橋」10周年記念イベントには、事業所と連携している機関や企業の方々が多数参加した。

杉原 やっぱりフェアやから。別の言い方をすると、フラットな関係性なんやろな。

田中 そうですね。ただ、そういうのが好きじゃない人もいると思うので。それじゃ物足りない人もいるだろうし、「障害者として扱われること」を求めて、実際それで救われる人も世の中にはいっぱいいるから。相性とかもあるのかなと思いますね。僕にしてみれば、障害って一つの要素にすぎないし、けっこう「たまたま性」があると思っていて。

僕の場合、視力が0.1ないけど、科学技術が発展して眼鏡やコンタクトがあるから、障害者として認定されていない。もしそれがなければ、目が見えないので障害者になる、っていう視点もあるから。……この仕事って、「個人の気持ちに寄り添うのが当たり前」って思われていて。僕ももちろん寄り添う時は寄り添うけど、寄り添わない時は寄り添わない(笑)。

杉原 ははは。でもそれって人間関係においては普通のことやし、そういう意味で変な壁がないんやろな。タナキーニみたいな考え方の人って、就労支援の仕事の中でも少数派じゃない?

田中 そんな感じがします(笑)。ただ言えるのは、真面目一徹、正義感の塊みたいな人は、就労支援の仕事は続かないです。自分の意見は当然あっていいけど、いろんな意見を受け入れながらやれる人じゃないと。

杉原 「これが絶対正義だ!」みたいな人は、ちょっと難しいと。

田中 多分やめちゃうと思います。でもそういう人もすごく大事なので、僕はやめてほしくない。いろんな人がいて、全体としてバランスが取れているといいのかなと思います。いろんな人が、いろんな支援をしたほうがいいから。

就労支援に関するさまざまな講座をつくり、自ら講師も務める田中さん。

嫌なら就労しなくてもいい

杉原 ところで、就労っていうのは一つの分かりやすい目的ではあるけど、そこだけを目指すわけでもないんやろ?

田中 そうですね。就労は通過点なので。やりたいことをしたり、自分らしく生きるための手段にしてもらえればいいかなと。就労したくなければ、しなくていいと思っています(笑)。

杉原 いいね(笑)。でもそういうの大事よな、ほんまに。

田中 家族に「就労しなさい」って言われて就労しても、多分続かないとは思うし。「絶対働きたくない」っていう人には、就労のサポートはできないかなと思うので。違う道を探したり、お金の面をどうするかっていうほうに考えをシフトしていく。節約したり、年金を活用したり、B型(就労継続支援B型。軽作業などの就労訓練を行う福祉サービス。作業の対価として工賃を受け取れる)を利用したり、そこは自由なのかなと。

利用者さんとの面談の様子。

杉原 あらゆる支援が就労支援に一元化してることの弊害ってすごくあると思うけど、自分がやりたいことをやりながら生きていく上でも、就労って一つの有効な手段ではあると思うし。企業もいろいろで、「え、こんなので金もらっていいんすか?」みたいなのもあったりして(笑)。自分にフィットしてストレスなく働けるなら、それをうまく利用すればいいよな。

田中 そうですね。転職するのも当たり前の時代なんで。そういう意味では、一昔前の人よりプレッシャーは少ないかなと感じるんですよね、就労に関しては。

他人とはいろんな自分である

杉原 2016年に「やまゆり園」の殺傷事件があったやん。犯人が「生産性のない人間は価値がない」みたいなことで、障害のある入所者19人を殺害したという。あれはどう感じたの?

田中 それはやっぱり「比較」があるから。健常者と、障害のある方を比較しているから。でも別に比較する必要は何もなくて。その人はその人なので。毎日ちょっとずつでもできることが増えたり、成長したり……。ゴールってその人の中にしかないから。多分、彼の中に「これが正しい」っていう固定観念があって、それと比較した時に「必要ない」と思ったと思うんですよ。……とはいえ、比較するのが全部悪じゃないし、目指すべき存在との比較があって頑張れる部分もあるし。ただ、悪い方向に働いちゃうこともある。

杉原 確かに。比較が人を不幸にするっていうのはすごくあると思う。それぞれが「自力で生きて行かなあかん」ってなると、自分のダメな部分を見てしまいがちになるし、他人が競争相手みたいに見えてくる。だから俺が思考実験的によくやるのは、「他人とはいろんな自分である」っていうモノの見方。

田中 なるほど。

杉原 たまたま俺は今、こういう要素を持った自分やけど、その要素って他人の中にも多少なりともあるわけやん。その要素の割合が全然違うのが他人やと考えたら、「こうであったかもしれない自分」が世の中にはたくさんいて。他人を見た時に「あんな自分もいるんだ」とか「こんな自分もいるんだ」ってなる。で、基本的にはみんな「世の中よくなればいいな」と思っているわけで。そうすると、自分にはない能力を持った人たちが、それぞれやれることをやってくれているわけで。だからすごい人がいたら、「すごい自分、ありがとう!」みたいな(笑)。「俺にはそれでけへんけど、お前がやってくれてるから」って。そう感じると、嫉妬するよりむしろ応援したくなるっていう。

田中 ああ、その考えいいですね。じゃあ逆に「この人すごくないかも」みたいな他人も、自分のすごくないところを肥大化した人ってことなんですよね。だから「あ、助けてあげようかな」みたいな感じになるってことですよね。

杉原 うん。そうすると結局みんなつながってるっていうか。殺人事件とかが起きても、「犯人は俺やったかもしれんな」って思うし。一概にその人を悪人と決め付けて終わることにはならない。「他人とはいろんな自分である」っていう。

田中 面白いですね。それだといろんなことに対してジャッジしないですね。

杉原 そういう視点が一つあるだけでも、生きるのが少し楽になったり、比較しにくくなったり。モノの見方でちょっと救われるところもあるかなと。

24歳のころにカルチャーショックを味わいたくて旅したインド(写真はハリドワール)。大学院修了後に再度訪れた。

フェアじゃない現実と向き合う

杉原 今後こんなことをやっていきたいとかある?

田中 先の目標としては、「いかにいろんな組織と関われるか」を大事にしていきたいと思っていて。例えば今だと、コンフィデンス日本橋で就労支援の仕事をしながら、それとは別に、障害者雇用のコンサルタント会社とも関わっています。そこでお手伝いしているのが、障害のある子どもを持つ親御さん同士がつながるオンラインサロン。知的障害のある息子さんを育ててきたお母さんが、「こういうものがあったらいいな」と思って立ち上げたサロンで、僕はその理念やサロンのやり方に共感した感じです。「カルミアサロン」っていうんですけど、そういう関わりがどんどん増えていけばいいなと思っていて。

杉原 複数の組織に関わりながら、自分の得意なことを提供していくと。

田中 そう。一つの場所だけで働くことにすごく抵抗感があるので。世界観が縮まっちゃうし、福祉の世界だけが全てではないので。自分の意識をアップグレードしていくためにも、いろんなところと関わっていければと思っています。あとは書く仕事として、障害者雇用や就労支援のことをもっと広く伝えていきたいっていうのもあるし。

杉原 「障害者と関わる仕事をしていく」っていうのは明確なん?

田中 いや、そこも分からないですね。例えば難民の支援もいいかなと思う時があるし。これから外国人労働者が増えてくる中で、困る人もいっぱい出てくるだろうから。

杉原 そっか。そこにもフェアじゃない現実があるわけやもんな。

田中 ありますね。ただ、そっちのほうが体力使いそうな気がしますけど(笑)。あとは、刑務所出所者の就労支援とか。企業とのマッチングとか定着のところを考えると、障害者の就労支援と変わらないと思うんですよね、ベースの部分は。細かいテクニックは変わってくると思いますけど。で、なぜそれをやりたいかと言うと、やっぱりフェアじゃないからです。かわいそうとかでもないし、犯罪を犯した過去は変えられないけど、チャンスがないのはおかしいと思うから。そういう手助けはしたいと思いますね。

杉原 うん。ほんでそこにもやっぱり障害の問題が出てくるよな。

田中 出てくると思います。最近、『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)っていう本が売れているみたいで。僕はまだ読んでいないんですけど、要するに少年院には、認知機能が弱くて、ケーキを等分に切ることもできない少年がたくさんいると。しかも障害者手帳を持っていないケースが多い。そのへんで困っている人ってすごく多いだろうなと思うし。

杉原 それって本人の意思を超えた問題やもんな。そういう人も一緒に生きていける環境をどうやってつくっていけるかっていうことやんな。

田中 そうですね。法律上「障害者」っていう言葉は健常者が生み出しているんで、そこは逃れられない部分があるでしょうけど。テレビ番組とかも、「障害者がどれだけ健常者みたいに暮らせるか」とか、「どれだけ健常者みたいな記録を出せるか」っていうのが多い。そういうのもあっていいけど、それより障害のある人が本当に困っていることとか、一人ひとりの個性とか、そういうのにフューチャーしたものがもっと出てくるといいなって。他の人と比べることを前提にしないで、その人の人生そのものにスポットライトがより当たれば、生活の質は変わるだろうなって思います。

ゲストの田中佑樹さん(右)と杉原学。田中さんが勤める「コンフィデンス日本橋」の向かいにある喫茶店「ミカド珈琲」にて。

(おわり)

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