【そんな生き方あったんや!】第21回「どんな人も一生懸命生きている」自立生活サポートセンター・もやい理事長・大西連さん

今回ご登場いただくのは、「自立生活サポートセンター・もやい」の理事長を務める大西連さんです。もやいは、日本国内の貧困問題に取り組む認定NPO法人。生活困窮者への相談支援や、住まいを持たない人への入居支援、行政への政策提言など幅広く活動しています。

先の国会では、大西さんが参考人として招致され、コロナ禍での困窮者支援の実情を報告。現場からの意見を述べ、菅総理の「最後は生活保護があるんだ」という答弁を引き出したのは記憶に新しいところです。

自らの才覚を本当に困っている人のために発揮している大西さん。かねてよりお話を伺いたいと思っていた杉原は、新宿区にあるもやいの事務所を訪問しました。彼の言葉からは、人間の弱さを見つめる優しさと、ままならない現実に対峙する厳しさが伝わってきました。

※この記事は、地域づくり情報誌『かがり火』198号(2021年4月25日発行)掲載の内容に、若干の修正を加えたものです。

【プロフィール】

大西 連(おおにし れん) 1987年、東京生まれ。認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。新宿ごはんプラス共同代表。生活困窮者への相談支援活動に携わりながら、日本国内の貧困問題、生活保護や社会保障制度について、現場からの声を発信、政策提言している。著書に『絶望しないための貧困学 ルポ 自己責任と向き合う支援の現場』(ポプラ新書、2019年)など。

杉原 学(すぎはら まなぶ) 1977年、大阪生まれ。文筆家。専門は時間哲学。四天王寺国際仏教大学中退後、コピーライターを経て、立教大学大学院に入学。博士前期課程修了、後期課程中退。単著に『考えない論』、共著に内山節編著『半市場経済』(第三章「存在感のある時間を求めて」執筆)など。世界で最も非生産的な会議「高等遊民会議」世話人。日本時間学会会員。かがり火WEB共同主宰。

人間は弱い生き物

杉原 大西さんの著書『絶望しないための貧困学』(ポプラ社)、ストーリー仕立てになっていて、すごく面白かったです。特に「アパートとネコ」のエピソード。橋の下でネコと暮らしているホームレスの人がいて、役所の福祉課の人も「生活保護を受けたら?」って言ってくれているんだけど、「この3匹のネコたちも一緒じゃないとイヤなんです」と。

大西 家族なんですね。けっこうそういう人いるんです、ほんとに。

杉原 でもそれだとシェルター(簡易宿泊施設)に入れない。そこで大西さんと役所の人たちがすごく頑張って、ネコと暮らせるアパートに直接入れるように手配して。

大西 そうそう、なかなかできないんですけどね。

杉原 それでみんなで「良かったねー!」ってアパートに入ったら、ネコたちが窓から逃げ出していなくなるという(笑)。

大西 ネコはね、アパートに住みたいわけじゃないんですよ(笑)。

杉原 結局1匹は帰ってこなくて、2匹のネコと一緒に河川敷に戻って。「今までの苦労は何だったんだ!」っていう。

大西 悲しい出来事ですね。いや、けっこうそういうことあるんですよ。それって見方によっては、すごく自分勝手な、税金でそこまでやっといて、みたいになるんですけど、人間ってそんなもんっていうか(笑)。

杉原 いや、本当にそう思うんですよ。やっぱりそこに人間の生きている意味とか、実感とかがあるから。むしろそこを軸にして、どうしていくかっていうことを、本当はね。

大西 そのとおり。人間って弱いものだし、失敗もするし、ダサいこともするし、間違えるし、けっこう悪いことしたりするわけですよ。まあでも、「そういうもんだよね」って。身ぎれいな人なんて、そんなにいない気がするし。家賃払わないでパチンコやっちゃったりね。肝臓が悪くてお酒を飲んだら血を吐くのがわかっていても飲んじゃうとかね。でもそうなっちゃう弱さみたいなところは、一方で人間のリアルでもあるし。そこを糾弾だけしていても、何もうまくいかない。言うほうは簡単ですけど、世の中ってそんなに簡単じゃないので。

一時期「社会的包摂」っていう言葉が盛んに言われたけど、「あんなヤツも包摂するのか」みたいな議論も一方であるわけじゃないですか。きれい事じゃない部分もあって。けれども、「そういうヤツもいていいんだ」っていうところにいかないと、結局、適応できる人だけを統合しているだけで。外国人の問題も、セクシャルマイノリティーも全部そうだと思いますけど。まあ自分もなんとなく、世の中の生きづらさ、適応できなさとかを感じてきたと思うから。それはありますよね。

支援活動に参加したきっかけ

杉原 そう、不登校だった時期があるそうで。

大西 中学ぐらいからあまり行ってなかったですね。なんか、めんどくさくなっちゃって(笑)。で、高校を出てから3、4年ひきこもっていた時期もあるので。でもそこの立ち止まり期間があったから、自分のことも、社会のことも、すごく考えるようになったし。まあ堂々巡りするだけなんだけど。でもその時間って、意外と無駄じゃないと思っていて。

杉原 そう思います。

大西 そこで考えたことが、けっこう軸足というか、ベースになっているし。行く先が全くない時代があったので、必要とされることのありがたさもすごく感じるし……。支援活動に参加したのは、ほんと偶然ですね。リーマン・ショックがあって、当時は「日本にも貧困があるんだな」ぐらいにしか思っていなかったので。たまたま友人に誘われて、炊き出しに行く機会があって。

杉原 でもその一回で終わらずに、継続的に行くようになったのはなぜですか?

大西 まあ、ヒマだった……。

杉原 ヒマだった!(笑)。

大西 やっぱり忙しいと行けないじゃないですか(笑)。家で寝てるよりは、なんか気になったし、行ってみようかなって。変な話、無理してボランティアしたくないわけで。ま、時間があったっていうのは大きいです。

「日本の貧困問題を仕組みから変えていきたい」という大西さん。(撮影:井口康弘)

杉原 それはすごく本質的なことだと思いますね。

大西 じゃあヒマだからって何で行ったのかっていったら、それはうまく言えないですよ。言語化できない何かってありますよね。

杉原 客観的に見れば、不登校で疎外感を感じた経験があって、支援対象の人たちにそういう自分を重ね合わせていたとか……。

大西 まあそう言うことはできるんですけど、実際はそんなにきれいに言えない感じがあって。ただヒマだったのは間違いない。あと好奇心みたいなのもあって。だから最初は、悪い意味でのツーリズム的な感じもあったかもしれない。でも行くうちに視点が変わってくるというか。お互い名前を知ったら、知り合いになっちゃうわけだから。なりたくてなるわけじゃなくてもね。

その人が倒れていたら「大丈夫?」ってなるし。普段ふざけている人に真剣な顔で「アパートに入りたい」とか言われたら、じゃあ実現できる方法はないかなって考えるし。そこは付き合いというか、人間同士の関係性、つながりみたいなのが生まれていくし。あと支援をする仲間にも、面白い人がいっぱいいたので。関わっていくと、いろんな面白さがあって。たまに休むと心配されたり。いいのか悪いのかわからないけど、僕らにとっても居場所的になるわけです。

全員対等って大事

大西 もやいでのボランティア活動は2010年から始めて、日曜日の炊き出し、月曜日の新宿区役所への同行などをしていました。東日本大震災の後、当時もやいの理事長だった稲葉剛さんに誘われて、本格的に関わるようになって。2012年から有給スタッフ、2014年から理事長をやっています。

杉原 僕が大西さんと知り合ったのは、確か震災前ですね。自殺予防関連のサロンだったと思いますけど、とにかく頭の回転の速い人だなーと思って。

大西 いやいや。当時23歳くらいでしたけど、落ち着きのない、生意気な感じだったと思います。あれから10年たって、物理的にも、メンタル的にも、丸くなりました(笑)。

杉原 あははは。やっぱりいろんな人との関わりの中で。

大西 経験じゃないですかね。当時は自分が中心にありましたけど、今はチームとしてのパフォーマンスを考えて動くから。役割とともに、目指すものも変化していったのはあると思いますね。

杉原 もやいのみなさんが主体的に動かれているのは、大西さんの存在が大きい気がします。

大西 いえいえ、そんな大したことはしてないんだけど。僕は現場も好きなので、今日も午前中はずっと訪問に行っていて。そこは理事長らしくない理事長なんじゃないかな。(通りかかった事務局長の加藤歩さんに向かって)けっこうみんなにいじられる理事長ですよね、事務局長?

加藤 うん。

一同 あははは!

大西 彼女が事務局長です。僕は理事長らしくないですよね。権威がみじんもないよね。

加藤 みじんもない。

杉原 みじんもない(笑)。それ最高ですね。

加藤 ウチは反権力だから。

一同 あははは!

大西 でも全員対等って大事だからねー。

加藤 その代わりなかなか会議で物事が決まらない。

大西 みんな好き勝手なこと言うんで(笑)。でも最近は必ずしもそうでもない。やっぱりコロナはすごいインパクトがあって、やることが鮮明になってる。困っている方がたくさん来るので、なんとか頑張らなくちゃいけないっていうので、ベクトルが勝手に一つになったというか。自分たちの安全も、当事者の安全も守りつつ、どうやってより支援できるのか……。この1年はそんな感じで走ってきた気がしますね。

コロナ禍を受け、毎週土曜日に新宿都庁前で相談会をスタート。

支援の現場から見たコロナの影響

大西 リーマン・ショックの時は、ある種ダメージが偏っていたんですけど、今回は全体ですからね。社会福祉協議会も大変なんですよ。この1年で150万人が貸付制度を使っているので。前年は1万人で、今年は150万人なんです。

杉原 え~!

大西 ヤバいでしょ? リーマン・ショックや東日本大震災の影響があった2009〜2011年の3年間を合わせても20万人ぐらい。

杉原 もうケタ違いですね。

大西 ケタ違い。もちろん今回は対象を広げているので、単純比較はできませんが。今はいろんな支援制度でなんとかしのいでいる状態ですけど、根本がなかなか解決しないので……。支援策がどこかで途切れたら、一気にしわ寄せが出てきちゃうと思います。

杉原 先日は国会に参考人として呼ばれて、支援の現場からの意見を述べられていましたね(2021年1月27日の参議院予算委員会)

大西 僕が呼ばれることなんてまずないんですけど、コロナがこの状況なので。生活困窮者の問題が切実で、与野党を超えて「現場の人の話をちゃんと聞こう」となったみたいで。そうしたら菅総理がね、「最終的には生活保護がある」って発言して。

杉原 あ、それの時でしたか。

大西 まあ言っていることは正しいんですけど、「まずその手前の支援制度を作ろうよ」っていう話もあるし、扶養照会のような時代に合わないルールも変えていくべきですよね。

相談会では食料品のセットを提供。2021年2月以降は毎回300人近くに提供している。

杉原 大西さんの本で知りましたけど、生活保護の利用者が60人に1人っていうのはびっくりしました。

大西 小学校のクラスが30人なら2クラスに1人。しかもそれは実際に利用している人数で、利用できるぐらいの経済状況の人はその4、5倍いると言われているので、12人に1人とか。貧困率という基準で言えば6人に1人ぐらい。気付いていないだけで、ギリギリのところで頑張っている人がたくさんいる。その上で病気になったり、人間関係で病んじゃったりとか、そういうリスクは誰でもあるじゃないですか。そんな時代だからこそ、生活保護がもっと使いやすくなればいいと思いますね。

苦しんでいる人に優しくない社会

杉原 仕事をしていて特に印象的だったエピソードなどはありますか?

大西 なんだろな……。うん、あり過ぎてわかんないですね。ほんとにいろんな人がいるなっていうのと、いろんな人生があるなっていうことに尽きますよね……。もやいの活動は幅広いので、たくさんの人を支援するから、どうしても一人ひとりとのつながりって薄くなるんですよ。相談も年間4000件ぐらい来るし、連帯保証人の引き受けも延べで2400世帯、緊急連絡先は700世帯を受けているので。

杉原 すごいな……。

大西 だから正直、僕が知らない人もたくさんいます。でも、すごくつながる人もいるわけですよ。どういう時につながるかというと、だいたい、良くない時。うまくいっていないから、何度も顔を合わせる機会がある。家賃を滞納してしまうとか、ごみ屋敷にしちゃったとか、そういう家庭には訪問したり。結果的により困っている方の対応をすることになるから、いいストーリーっていうよりは、「うまくいかねーんだな、世の中は」って思うことのほうが多いし。

なかには孤独死される方もいるんですよ。そういう対応をけっこう僕がやることが多くて。亡くなった方のお部屋に行くのが苦手だったり、しんどいっていうスタッフやボランティアの方も多い。臭いがあったりとかもあるし。死後間もないところには、ちょっと独特のものがあるので。僕はまだ耐性があるから、やるんですけど。だから僕が対応する現場って、一番大変というか、激しい状況が多いし、亡くなった後のお部屋の片付けとか、それこそご遺体を発見することもありますし。なので、なんだろ……。言えない、みたいな。はははは。

杉原 うーん……ちょっと言葉が出ないです。

大西 なんかいろいろある。いろんな思いはある。ただ言えることは、「この社会は最低だな」って思いますね。もっとできることがある。もちろん僕らの力不足はあるかもしれないけど、しょせんは吹けば飛ぶようなNPOなので。行政もそうだし、地域の人たちもそうだし、もっとみんなできることがあったんじゃないの、っていうのはすごく思いますね。あんまり人のせいにするのはよくないし、この社会にもいいところはたくさんありますけど、苦しい状況の人に対してはまだまだ全然優しくない。そういう実感を持っています。

共生していくこと

杉原 『おくりびと』っていう映画があったじゃないですか。納棺師の話でしたけど。

大西 はいはい、モックン(本木雅弘)の。

杉原 そうそう。それまでの人生がどんなものであろうと、死は丁重に扱われる。多分あれは、「全ての人は、必ず誰かに愛された存在である」っていうことだと思ったんです。

大西 そうですね。そもそも人間の生自体が、全力で肯定されるべきものですからね、本来は。大切に思われたいっていうのは、みんなありますよね。いろんなことがあってもね。あと、どんな人も一生懸命生きてきたのは間違いないですよね。本当にそう思います。

相談会にて相談対応を協議中。左から2人目が大西さん。

杉原 さっきのヒマの話じゃないですけど、他人に関心を寄せる余裕とか時間がない。自己責任っていう言葉が何ではやるのかって、そういう自分を肯定してくれる言葉だから。それを使うことによって自分が安心できる部分がある気がします。

大西 うん。だから自分と違う人を排除するんじゃなくて、折り合いをつけながら、その経験を蓄積していく。それって共生していくことじゃないですか。それがすごくできていない気がする。これが社会を弱くしている気がしますね。で、そのためには、みんながちょっとずつ変わっていかなきゃいけない。変わらないほうが楽かもしれないけど、変わったほうが助かる人がいるんだったら、そっちにしようねって。仕組みや制度も含めて、いろんなレベルで「変わることを受け入れる」っていうことが、これからの時代はすごく大事じゃないかなと思います。

杉原 そうですね。いやあ、きょうは来れてよかったです。僕自身が「いざとなったらもやいと大西さんがいるからいけるやろ」と思っているので(笑)。

大西 ははは。それは何かあったらもちろん。何かなくても(笑)。

杉原 ありがとうございます(笑)。今は困っていなくても、「あの人がいる」っていう心強さって、すごく支えになるから。

大西 それは僕も思っていて。だからこそ、もやいがどういう場であるべきか、どういう役割を続けていくべきかは、すごく考えています。世の中から貧困がなくなれば僕らは要らないですけど、そんな簡単にはいかないと思うので。多くの人からそう思ってもらえるためにも、努力していきたいと思っています。

もやいの事務所にて、大西連さん(左)と杉原学。スタッフ同士がフランクにコミュニケーションを取り合っている姿が印象的だった。(撮影:井口康弘)

(おわり)

大西連『絶望しないための貧困学 ルポ 自己責任と向き合う支援の現場』ポプラ新書、2019年。

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