民間会社初の「環境・気候非常事態宣言」を発し、山林を削るメガソーラー建設に警鐘を鳴らす 高田造園代表の高田宏臣さん

昨年12月、本誌は千葉県長南町在住の読者・森山佳代氏に誘われて、千葉県茂原市で開催されたセミナー「長生郡市の美しい里山とメガソーラー開発について語る会」に参加した。参加前は、里山景観を損ねるソーラーパネルの問題点が語られるものと想定していたが、講演した高田宏臣さんの口から語られたのは、土の中を流れる水と空気の話が中心で、メガソーラー造成が山の機能を壊していると力説された。山に対する見方が一変した本誌は高田さんに取材を申し込み、日本の山林で何が起こっているのかを聞いた。(本誌:松林 建)

高田宏臣(たかだ ひろおみ) 1969年千葉県生まれ。東京農工大学農学部林学科卒業。現在、高田造園設計事務所代表、NPO法人地球守代表理事。自然共生型の造園設計・施工のほか、自治体等からの依頼を受け、各地で環境改善・再生を指導。2018年には全国メガソーラーシンポジウム(長野県茅野市)を主催し、メガソーラー建設による山地の造成で周辺部の土砂災害の危険性が増すこと等を講演。環境改善の専門家として、活発な活動を行っている。

※この記事は、地域づくり情報誌『かがり火』191号(2020年2月25日発行)に掲載されたものを、WEB用に若干修正したものです。

山林破壊の駄目押しがメガソーラー建設

──  東日本大震災以降、国では原発に替わる電力として再生可能エネルギーの拡大に力を入れています。特に太陽光発電は、固定価格買取制度の強力な後押しもあり、2018年には全電源の6.5%にまで拡大しました。ソーラーパネルも日常的な景観になりましたが、一方で、自然や景観破壊、再エネ賦課金、不安定な発電量、廃棄パネル処理などの問題も指摘されています。これらのうち、高田さんはメガソーラーの危険性を訴えていますね。

高田 大規模に山林を造成するメガソーラーは建設はやめるべきだと訴えています。太陽光発電が悪いということではありません。

──  日本では、高度経済成長期から現在まで盛んに国土を開発し、多くのダムや道路、宅地、空港、ゴルフ場、スキー場、砂防ダムなどを造ってきました。メガソーラーは、そうした開発と何が違うのですか?

高田 内陸部に造られるメガソーラーは山林の土を削って造成しますが、山も谷も平らにするほど地形を変えてしまいます。ゴルフ場やスキー場の場合、木は切ってもある程度の地形は残すので、元の山林に戻すことは可能です。しかし、いったん地形を大きく壊せば、山林の地下の水や空気の循環機能が失われ、元に戻すのが難しくなります。山々の地形を壊し続ければ水害や土砂崩れの危険性が増して、私たちが安心して住める場所はますますなくなるでしょう。その駄目押しが、メガソーラーなのです。

自然災害を防ぐ山林

──  山林における水や空気の循環は、どのような役割を果たしているのでしょう?

高田 健全な山林では、地下を水や空気が毛細血管のように流れ、そのすき間で菌類や微生物が活発に働いています。微生物は落ち葉や動物の遺骸を分解し、雨水をろ過して清らかにします。また、菌類から伸びた菌糸が樹木の根と共生し、養分や水分を樹木の根に媒介して土中深くに伸ばしています。菌糸が張り巡らされた土はスポンジ状になり、蓄えられた水はゆっくり降下して川底や海底から湧き出します。この清らかな水が、豊かな山の幸、海の幸を育んでいるのです。

また、こうした循環が山林に保たれていれば、豪雨でも大量の泥水が川に押し寄せることはありません。しかし、山の地形を壊してしまえばスポンジ状の土も壊され、水と空気が地下に染み込まなくなり、水と空気が停滞します。そうなれば樹木が育たないヤブ山へと変わり、貯水力が失われて土砂災害が起きやすくなります。

民間企業初の「環境・気候非常事態宣言」を発した高田さん。造園業のかたわら、環境調査や講演活動を精力的に行っている。

──  土砂災害などを防ぐために、砂防ダムを造り、山肌をコンクリートで固めてきたのではないですか?

高田 そうした工事は短期的には効果がありますが、大地を力で抑え込もうとしますので、土中の水と空気の循環を停滞させて山林の機能を奪っています。これを何十年もあちこちで繰り返してきたことが山の貯水力を弱らせ、長期的には災害が起きやすい脆弱な国土を増やしているように思います。

千葉県の水害は山林破壊が一因

──  昨年の台風によって、千葉県をはじめ東日本各地で大規模な冠水や土砂崩れが発生しました。こうした災害の発生には、山林造成も影響していますか?

高田 大きく影響しています。調べた結果、山林の地形を大きく変える開発が行われた流域では、土砂崩れや河川の氾濫が集中して起こっていました。貯水機能が失われた山から、早い段階で膨大な泥水が河川に流れ込み、街を冠水させ、山の斜面を崩落させていたのです。

──  千葉県の鴨川市でも、大規模に山を造成するメガソーラーが計画されていますね。

高田 鴨川市で計画されている「池田地区メガソーラー事業」は、約150ヘクタールもの山林を切り崩して50万枚のパネルを敷き詰めるという桁違いの大きさで、内陸部では日本最大規模です。これができれば水害や土砂災害の危険が高まり、水質が悪化して農業や漁業に悪影響が出ます。現在、市民有志団体が反対運動をしていますが、いったん開発許可が出れば、まず止まらないのが現状です。

山林の地形を破壊するメガソーラーの建設は、災害を防いできた自然環境に取り返しがつかないダメージを与えている。

──  なぜ大規模に自然を壊してまでメガソーラーが建設されるのでしょう?

高田 それは、太陽光発電が原発に代わる再生可能エネルギーと思われているからでしょう。また、使われていない土地を有効活用できる金融商品であることも一因だと思います。山林の保有者は高齢化が進んで使い道に困っていますし、発電した電気は固定価格で電力会社が買い取っているからです。今も価格は下がりましたが、魅力的な利回りの投資商品であるのは変わりません。

──  私も原発事故が起きてからは、安全面なども考えて、原発の比率を抑える太陽光発電は増やすべきと思っていました。

高田 昨今の防災や減災の論議は、温室効果ガスを抑える温暖化対策に偏りすぎです。確かに海面温度の上昇は異常気象を招く側面があります。しかし、日本の国土の7割を占める山林が持つ機能を壊してしまえば、災害のリスクが高まり、元も子もありません。健全な自然環境なくして、暮らしの安全も美しいふるさとも持続しませんから。

民間企業初の「環境・気候非常事態宣言」

──  温暖化に比べて、なぜ山林破壊の社会的な認知度は低いのでしょう?

高田 それは、現代人が自然の恵みを実感して生きていないからだと思います。昔の日本人は水源を鎮守の森として大切に守ってきましたし、尾根や谷筋といった自然環境の要となる場所には手を加えませんでした。そこを壊せば災害が発生し、自然の恵みが失われることを知っていたからです。江戸時代には樹木が盛んに伐採されてはげ山が増えましたが、地形は保たれていたので森に戻すことができたのです。

──  昨年12月に、高田造園設計事務所では「環境・気候非常事態宣言」を発表しました。どのような思いで宣言に至ったのですか?

高田 昨年、千葉県では3度の台風で大きな被害を受けましたが、その原因を調査するなかで、山林破壊の影響の大きさに何度も衝撃を受けました。しかし、その問題が一般にほとんど知られていなかったので、気候変動だけでなく環境も非常事態である認識を高めたいとの思いから、名称に「環境」という言葉を入れて宣言しました。日本では7つの自治体と千葉商科大学が気候非常事態宣言やメッセージを発していますが、民間企業としては第一号です。

──  前号の『かがり火』でも壱岐市の事例を取り上げましたが、どの宣言も気候変動の要素が強いですね。

高田 そのことが心配です。「再生可能エネルギーへの移行や拡大を推進」と述べれば、山林を削り取るメガソーラー建設が一層促進される可能性もあります。自然環境の根幹である山林を壊す再生可能エネルギーに何の意味があるでしょう。壊してならないものは守ったうえで、日本の未来を考えていくべきだと思います。

(おわり)

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