「人口1200人の上野村で再生可能エネルギーの会社を立ち上げました」三枝孝裕(うえのむらのいいところ支局長)

上野村産業情報センターに勤務していた三枝孝裕さんが独立した。小さな村で起業するということは都市の何倍もの困難がつきまとう。よほどの構想力、強い意思がなければ難しい。設立した会社の名前はエムラボ株式会社、プラスチックや有機ゴミを分解して原油を作る装置を販売する会社だという。会社のサブタイトルは“ワクワクドキドキ研究所”、安定よりもやりがいを求めて未知なる世界に挑戦する青年の決意にエールを送りたい。

【『かがり火』発行人・菅原歓一】

上野村に未来を感じた

私が群馬県上野村を知るきっかけになったのは、10年以上前になりますが、第1回の「新たな多数派の形成をめざす上野村シンポジウム」です。何とかたどり着いたシンポジウムの会場にはお客さんが20人くらいでパネリストが40人くらい、一人一言しゃべるだけで終わってしまいました。

その後の懇親会では村民の手料理によるおもてなし、民泊ではさらなるおもてなしを受けました。そうして2回3回とシンポジウムに通ううちに、年に1度の交流でしたが、上野村をどんどん好きになっていました。

それまで住んでいた前橋市から上野村への移住を決断した一番の理由は、東日本大震災だと思います。ガソリンスタンドに行くだけで数時間待ち、食料もほとんどない、電気も止まった、こんな危機的な状況では生きていけない。しかし上野村には水も食料もあり、何かあったら避難しておいでとも言ってもらえた。上野村に未来を感じました。

私が借りた家の大家さんが前村議会議長で、村長とも仲が良く、ご紹介をいただきました。そこで提案したバイオマス発電計画が採択され、全国を奔走して上野村型エコビレッジの構築のために、先行事例の調査を行いました。バイオマス発電というと大型のものが多く、上野村でも稼働させることができますが、上野村が求めていたのは木材を利用することです。

山はたくさんあったとしても人員などを考えると切り出せる量は年間9000㎥。この量で効果的な発電ができる施設は国内にはなかったため、ドイツ製の機械を初めて導入することになりました。この施設は注目を集め、それまで上野村に視察に来る人は年間300人程度でしたが、視察を有料化したにもかかわらず4倍の1200人が訪れ、そのうちの4分の1は宿泊する、一つの産業となりました。

上野村にはおがくずを圧縮して作るペレット工場があったので、それを使用しています。エネルギーの話をすると、ちょっとかじった人などからはチップのほうがいいのではないかとか、もう少し大規模にすべきではないか、採算性の悪い事業だなどいろいろ言われましたが、別にそんなことはどちらでもよいのです。上野村にある資産を生かすことが事業の目的でした。

上野村の“もったいない王”を目指して起業した三枝孝裕さん。

上野村の目指す事業は、森を守ることです。高く売れる木材は高く販売したり、木工品として付加価値を高めたりします。質の悪い木材は砕いて圧縮して燃料化します。燃料化だけではなく、さらに熱と電気を取り出し、キノコ栽培に使用しています。本当はキノコ栽培に使うおがくずも村内で調達し、その残渣を燃料化する予定でしたが、東日本大震災で放射性物質が出てしまったので、キノコ栽培に使う分は他から買っています。

森を守るコストを燃料代という形で捻出することで、内需を拡大させています。私の試算では上野村という小さな自治体ですら村全体でエネルギーコストが4.6億円かかっています。この支出を減らすだけでなく、それを村内で調達できたらそれは収入となります。

しかも上野村の場合は原料は木材ですから、燃料費が最終的には林業従事者の給与として支払われます。そうすると村内の食堂や雑貨屋で使われますから、2回3回とお金が回るそういう仕組みを作ろうとしたわけです。この仕組みが評価され、おかげさまで群馬県初となるバイオマス産業都市の認定もいただきました。

1年半ほど実施したバイオマス発電所の設計が軌道に乗った後は、産業情報センターに所属させていただき、主に観光協会業務をこなしてきました。交流人口対策は初めての仕事でしたが、先のバイオマス視察ツアーや文科省が推奨する持続可能な開発のための教育(ESD)を取り込んだ親子向け自然体験プログラムなど、多くの新しい体験型観光プログラムを作成しました。

特にこだわったのが、同じような自然は日本中にありますが、ここにいる人はここにしかいない、この人たちが財産なのだということで、この財産に触れてもらうプログラムを多く実施し、お客様に楽しんでいただきました。

伝統的な暮らしを現代の技術で再現する

多くの村民と触れ合って仲良くできる面白い仕事だったのですが、前村長の退職とともに5年勤めた産業情報センターを辞め、自分で会社を始めることにいたしました。確かに毎月決まった額がもらえる仕事は安心ですが、上野村を桃源郷にする計画を完了するにはもう少し覚悟が必要だなと感じたのです。

上野村は第三セクターまで入れればほとんどの事業は上野村役場がやっているといえるところです。大手企業を誘致できなかったことで、すべて役場がやってきました。私が起業した理由は、やはり民間の活力が必要だと感じたからです。どうしても行政の評価システムですと、やらなくてもやっても保証されるものは一緒で、賞与などの差がつけにくい。どうしても二言目には村がやればいいということになってしまう。

2018年5月結婚。新婦の励ましがあってので独立できた。

やっぱり自分たちの村は自分たちでつくらねばなりません。スーパーマンがやってきてまちづくりされるなんてことは幻想です。有名な黒澤丈夫氏(元村長)には会ったことがありませんが、氏が偉大だったので上野村という弱小自治体が残ったのも確かです。強いリーダーがいる間はそれでもいいのですが、そのリーダーがお亡くなりになった今、新しい仕組みが必要とされています。

上野村にいると、内山先生(編集長)が以前おっしゃっていた「人が土地を選ぶのではない。土地が人を選ぶのだ」ということが実感できます。まず上野村との接点を作ってくださった方が大家さんの親戚であり、大家さんは村唯一の神主さんで人徳者。私も、もう7年もいますから今はだいぶ名前が知れ渡りましたが、最初のころはあいつの仕事はなんだか分からないが神主が家を貸しているのだから大丈夫だろうとよく言われたものです。いまだに大家さんの加護で生きています。

私が手掛けた上野村のバイオマス発電は、代々山を守り続けてきた人がいたから成り立つシステムです。バイオマス発電と言うとかっこよいですが、昔の里山生活、炭を焼いてエネルギーを得ていたわけで、単に昔に戻るということは難しいので、それを現代の技術で再現しただけです。物資がなかった時代は塵になるまでリサイクルをしていました。現代の大量生産大量消費というシステムは日本には合わないシステムなのです。

弊社の目的は「人が人として幸せに生きるお手伝い」です。私にできることは限られます。だから地域の皆さんのお力をお借りしながら、地域の資源の再発掘ができたらと思います。私は上野村には珍しい各種技術にちょっとだけ詳しい人なので、今はインスタグラムデビューしたいという90歳のおばあちゃんとタブレット教室をやっています。

他に国の制度であるIT補助金導入支援事業者に登録し、ホームページの作成などをしています。また群馬県商工会連合会のエキスパートバンク事業にも登録し、役所の分かりづらい書類の作成支援などを行っています。

意欲的なおばあちゃんにタブレットを教える教室を開催。

普通、商売を始めるには顧客を持っているか、潜在的顧客が明確なことが良いと言われています。しかし、1200人の村だから顧客は限られています。行政から仕事を回してもらうもくろみもありましたが、これがすべて外れて収入としては厳しくなっています。

スポンサーがついているので明日の支払いにすぐに困ることはありませんが、スポンサーからも収益性を上げるよう迫られています。こういうのは会社員にはないプレッシャーです。現在は、少しでもお金を得るために日々新しい仕事を見つけています。

先日、商工会主催で第二創業セミナーをやっていましたが、こんな思いをしてまで創業するよりも会社員のままで副業を始めたほうが楽だと思います。ただ、責任もありますが、仕事のやりがいははるかに今のほうが大きいです。

「もったいない」を極める

上野村は人口1200人しかいないので、そこを相手にしていては仕方がないという人もいます。それは違うと思います。物流の発達で地方でも注文すれば翌日には届くような環境ですから、人口1200人でしか生み出せない価値を簡単に消費者に届けられるという意味ではチャンスです。

しかし軸足は上野村に置いています。それはやはりここに未来を感じるからです。成功した時、上野村のような小さな自治体にいたほうが宣伝効果は高いということもありますが、私は上野村にいると生かされているという実感を持てます。これこそが人間にとって真に幸せなことなのだと思います。

今営業中の案件は再生可能エネルギーの調査です。上野村に来たばかりのころ、すべての河川の水量を調査してそこから最適な発電所の計画を立てたり、バイオマスの時も現場を徹底的に調査しています。そういう提案を市町村にすることができたら良いと思っています。

正直、補助金消化のためのコンサルよりは現場に即した提案ができる自負はあります。ただし、これにはまちづくりをどうしたいかというビジョンが必要ですので、普通よりハードルが高いかもしれません。

並行して進めているのはごみや木材、農業副産物などを分解して燃料にする技術を販売することです。テクニカルなところは知財を押さえる前ですので、あまり話せませんが、物が燃えるということは酸素と結合しているということです。

酸素と結合する手前の状態を維持できれば燃料になります。基本的には高温高圧をかければ大抵の有機物は燃料化できるのですが、それにはコストがかかり、今の経済観念では燃料を輸入したほうが安いということになってしまいます。

日本には大量生産大量消費時代の残骸がたくさんあります。それを燃料にして再利用することができたら、資源大国となります。それに食料と水はたいていの地方は自給できますから、エネルギーを自給できるようになれば地方は成長できます。日本全体での石油輸入量は7兆円以上。つまり私たちは間接的にサウジアラビアなどの王様に貢いでいるのです。

今まで都市システムの限界を地方に押しつけてきたわけですが、限界集落とばかにされてきた地方にこそ可能性があるのです。都市を維持するには大型のエネルギー供給施設が必要ですが、現代の技術はITをはじめ小さく分散した電源を必要とするので、今こそ地方が輝く時なのです。

弊社の社名を英語表記するとMOTTAINAI LABORATORY CORPORATIONであり、もったいないを極めていきます。もったいないを極めることで、ワクワクドキドキを提供する研究所でありたいと思っています。できることは何でもしていきたいです。

弊社の目標としては上野村に税金の他に10億円ぐらい寄付し、次の元号では「もったいない王」と呼ばれるような会社になりたいです。

(編集部:〝結果がすべてだ〟という言葉をよく聞くが、小さな村での起業には当てはまらない。成功するしないよりもさまざまな障害を乗り越えて、少しでも住みやすい社会をつくろうと挑戦する精神が美しいのだと思う)

※この記事は、地域づくり情報誌『かがり火』185号(2019年2月25日発行)に掲載されたものを、WEB用に若干修正したものです。

<クラウドファンディングにご協力をお願いします(2020年3月13日(金)23:00まで)>

『かがり火』185号(2019年2月発行)でご紹介頂きました弊社の「木からガソリンを作る装置」への思いが捨てられず、このたびクラウドファンディングを実施することに致しました。以下に思いを少し語らせてください。

私は2018年4月に独立し「人が人として幸せに暮らしていけるお手伝い」をコンセプトに、上野村をはじめとする地方活性化のお手伝いをする会社「エムラボ株式会社」を設立致しました。

弊社では上野村の活性化のために私ができることは何でもやっていますが、面積の95%が森林という上野村にとって、林業の活性化は欠かすことができません。そこでいかに木を使うかを考えた結果、木材を燃料に加工することを思いつき、研究を続けてきました。

その甲斐があって、このたび技術を確立し、特許を出願致しました。しかし今はまだ試験管とフラスコのレベルですので、とても皆様のお手元に届けることができません。そこで今回、インターネット型寄付であるクラウドファンディングを「レディーフォー」というサイトで行い、販売規模のデモ機を作るための資金調達を行うことと致しました。

審査の都合もあって、表示上は250万円の設定になっていますが、実際には1,000万円近くかかります。そこで多くの皆様にご支援を賜りたく、お願い申し上げる次第でございます。

この技術は簡単に言えば、木を燃やしたときに出てくる煙を集めてガソリンを作る、という物です。しかもサイズは軽トラックに乗るサイズ。普通にやっては煙が燃料になることはありませんが、そこが特許技術です(今までにこんな機械は存在しませんでした)。

エジソンが電球を発明して以来、エネルギーは発電所で作るしかないと思われていました。しかし実際には、小さく作ってその場で使った方が地球環境にも良いのです。明治時代くらいまでは、エネルギーは薪などを用い自分たちで作っていました。その時代に戻ることはできませんが、最新技術に置き換えることはできます。

このまま石油を使い続ければ、グレタさんが訴えるとおり地球に人間が住めなくなります。しかしプラスチックをはじめ、石油は生活に欠かせません。弊社の技術は、木から石油の代わりになる森油(しんゆ)が作れる、大変地球環境に優しい技術です。

クラウドファンディングは、目標金額に届かなければ1円も頂くことはできません。この技術を広めるために、是非皆様のお力をお借りしたく、何卒お願い申し上げます。

三枝孝裕(エムラボ株式会社代表取締役)

>レディーフォー「木から生まれるバイオ燃料「森油」をつくる仕組みを開発したい!」

>エムラボ株式会社

(おわり)

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