「日本の田園はオーシャンビューに引けをとらない」豊饒な時間が流れる“農のオーベルジュ”「白金の森」

「白金の森」の夜明けは幻想的だった。眼下にクヌギの林が広がり、遠くには金峰山、鞍岳の稜線が見える。朝日とともに空から『この素晴らしき世界(what a wonderful world)』の音楽が聞こえてくるようだった。

毎号本誌『かがり火』の表紙裏に広告をいただいている「白金の森」が2018年4月7日、ついにオープンした。「農」と「食」を核にして、地域と縁を結びたいという松岡義博社長(69)の夢はどんなかたちで結実したのだろうか。

完成したばかりの “農のオーベルジュ”「白金の森」を訪ねてお話を聞いた。

菊地の田園に夢をかけた松岡義博さん。

── 本誌にとって松岡さんは、馬路村農業協同組合の東谷望史組合長、サラダコスモの中田智洋社長と共に大恩人の一人です。発行部数からいっても広告効果は少ないと思いますが、3社には本当に長い間、広告を出していただいて心から感謝しています。

本誌『かがり火』126号で松岡さんに登場いただいた時、農業専門学校を出た後、父親の農業を手伝っていたものの、厳しい労働の割には低収入の農業に鬱屈して、ある日、収穫中の葉タバコを投げつけて家出したと聞きました。

それから左官の見習い職人、建材屋の従業員、ダンプカーの運転手、ガリ版印刷の下請けなど10以上もの仕事を転々とした後、横浜市の日産の工場に出稼ぎに行ったのですね。

昼夜掛け持ちで働いて過労のために、溶接機に手を挟む大けがをした時、自分の生きる場所はやはりふるさとの菊池しかないと思って帰省し、400羽のひよこを飼い始めたのが20歳の時。

あれから四十数年、ここまで立派な施設をつくることができたのですが、いま白金の森に立ってどんな感慨をお持ちでしょうか。

松岡 私にとっては、まだ到達点ではありません。むしろ人生の再スタートに立ったと思っています。この「白金の森」を軌道に乗せて、次の世代にバトンタッチすることが最後の使命と考えています。

宿泊棟の受付。

 

ロビー。

 

ロビーから眺める田園風景。

 

施設全域が色とりどりの花で飾られている。

── 松岡さんをよくご存じない人は、養鶏で成功したので、その利益で新事業に進出したと思うかもしれませんが、全然違うんですね。

松岡 私は養鶏を始めたころから、ふるさとを何とかしたいという思いがありました。一時都会に出たけれど、なじむことはできず、ふるさとで生きていくしかないと決心したのです。そのふるさとに活気がなくなっていくのは、見るに忍びないことでした。

── 本誌が松岡さんと出会ったころ、コッコファームは今の国道沿いではなく山麓にありましたが、あのころからしきりに「森北周辺農業公園構想」の夢を語っていらっしゃいましたね。

松岡 私の構想は飛躍することもあって、周囲から理解してもらえず、〝何を考えているんだ〟と冷ややかな目で見られたこともあります。しかし、私は一貫しているんです。若者が都市に出て行って戻ってこない、残ったのはお年寄りばかり。最近は一人暮らしの高齢者が増え、空き家も目立つようになった。少しでも菊池を住みやすいまちにしたいという思いは一段と強くなっています。

夜明けの「白金の森」からの眺望。

── そのヒントがディズニーランドにあったというのは面白いですね。

松岡 農業公園を構想していたころ全国各地のテーマパークは低迷していたのですが、東京ディズニーランドだけは元気でした。その秘密が分かれば業態の違う農業でも可能性はあるのではないかと、東京ディズニーランドの雑踏に立って考えたものです。

── 本誌も長年お付き合いしているうちに、松岡さんの経営理念は、モノを売るだけでなく、人とモノ、人と人、人と自然、人と地域、地域と社会を結ぶ関係性、全体性の中にビジネスを捉えていると理解することができました。

宿泊棟へ続く小径。ロッジは8棟ある。

 

ツインベッドが置かれている部屋。

 

バスルーム。

 

レストランの入り口。

 

レストランはすべて個室になっている。

松岡 ひよこを飼い始めた時、それはいつ消滅するかも分からない小さな点でした。それが40年たって「たまご庵」として、少しは地域で知られるような大きさの点になったと思います。

しかし、地域性、社会性という「縁」を結ぶには、まだまだです。私は「縁」によって、地域が共有できる「夢」が生まれると考えています。「農」と「食」を核にして、次世代に希望の持てる地域社会をつくりたいと思っています。

── しかし、世間的に見れば、苦労してここまで安定した会社を築き上げ、息子さんに経営権をバトンタッチしたのだから、余生は悠々自適で過ごしてもいいじゃないか、何もリスクを背負う新事業に手を出すことはないじゃないかという見方もあると思いますが。

松岡 確かにそういう見方をする人もいるでしょう。しかし、サミュエル・ウルマンは「年を重ねただけで人は老いない。理想を失うときに初めて老いが来る。歳月は皮膚のしわを増やすが、情熱を失う時に精神はしぼむ」と言っているじゃありませんか。

── 「黄金の湯」に入りましたが、とても気持ちのいい温泉ですね。

松岡 予想を覆すような良質のナトリウム─炭酸水素塩温泉を掘り当てることができました。温度も摂氏49.5度という加水、加温もしていない100%天然の源泉かけ流し温泉です。近隣の方には、温泉だけの利用でも歓迎です。

日帰り温泉「黄金の湯」エントランス。

 

大浴場。

 

温泉の休憩室。

── レストランを「農のオーベルジュ」としたのは、どんな意味があるのですか。

松岡 オーベルジュというのは、泊まれるレストランという意味です。私には地域の食材についてある程度の知識があります。生産者の苦労も喜びも分かっているつもりです。地域の人たちがおいしい食材を作ってくれるならば、これを使って体にやさしいおいしい料理を提供するのは「白金の森」の重要な役割だと思っています。

レストラン四季農(しきみのり)で、創作料理をぜひ味わっていただきたい。全室個室になっていますから、他のお客さんは気にせずゆっくり食事ができるようになっています。

── 「白金の森」から眺める田園風景も、なかなかいいものですね。

松岡 日本の田園は、オーシャンビューに引けをとらない素晴らしいものだと思います。それに5haの「白金の森」は四季折々の草花を楽しむことができます。花好きの人には外周道路などは最高の散歩道だと思います。

それに、完全無農薬で栽培しているバナナ園もぜひ見学してほしい。『かがり火』の読者の皆さまにご利用いただいて、ぜひ感想を聞かせてほしいと思っています。都合のつく限り、お相手させていただきます。

無農薬で栽培しているバナナ園。

 

「白金の森」の手前に、直売所の「たまご庵」がある。

【編集部注】
松岡さんは『かがり火』の広告主であると同時に、熱心な読者でもある。毎号、関心を持った記事に傍線を引いて、FAXで感想を送ってくれる。松岡さんはコッコファームの代表権を譲った後、新会社設立までの間は個人で広告料金を負担してくれた。頭が下がる。

今回、「農」の延長線上の事業というものの、宿泊施設は難しいジャンルである。ぜひとも成功してほしいと願わずにいられないが、読者諸氏も機会があったらぜひ泊まってみていただきたい。その上で、感想を松岡さんに伝えていただければ幸いである。

■「白金の森」
〒861-1312 熊本県菊池市森北字白金2016-1
TEL:0968-24-6600
FAX:0968-36-9202
http://www.shirokane-mori.jp

(おわり)

※この記事は、地域づくり情報誌『かがり火』181号(2018年6月25日発行)の内容に、若干の修正を加えたものです。

>「コッコファーム」公式サイト

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