2013年11月17日、長野県木曽町で合併後3度目の町長選挙が行われた。後継者と目される前副町長との一騎打ちに臨んだのは、直前まで木曽町役場職員だった大目富美雄さんである。旧開田村出身の大目さんに勝ち目はないとの見方が大半のなか、わずか100票差での惜敗という大接戦を演じた(当時の有権者は1万299人)。
もちろん、惜敗でも負けは負け。選挙後の手当てをせず、退路を断っての敗退は、「いまの自分にはもう何もない」が実際のものとなる。仕事なんかいくらでもある、と甘く見積もっていた大目さんは現実の厳しさに直面する……。
本書は、旧開田村と木曽町の役場職員を経て、現在は木曽町の町議会議員を務める大目さんの地域づくりエッセー集だ。長きにわたる公務員生活、地域づくりグループでの活動、海外研修道中記、50歳での信州大学大学院入学、町長選挙出馬の顛末とその後の再就職活動などが飾ることなくつづられている。
「一生懸命」を絵に描くと大目さんになってしまうような人だから、本の内容はたいへん真面目である。とはいえ、一生懸命ゆえにチラチラと出てしまう、役所勤めでなければ知り得ない描写や本音を探し出す面白さがこの本にはある。
景観条例や町村合併、海外研修、地域産品のブランド化、他市町村との交流など、行政のさまざまな取り組みにも多くのページを割いているので、いま役場の職に就いている人をはじめ、地域づくりに携わっている人たちにとっては、参考になる部分も多い。一方で、 娘や息子のこと、自身の頭髪の悩みなどを語る時は見事にオヤジになりきってみせる。『かがり火』の読者ならぜひ読んでほしい一冊だ。
【本誌・森田秀巳】
定価1,000 円(税込)
【購入方法】
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Mail : info@ome-fumio.com
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