日本に「相談のインフラ」を作りたい キャリアコンサルタントと社員のマッチングサービス「カケダス」を始めた渋川駿伍さん

社会人として、自分らしく、楽しく、そして会社や社会に役立つ仕事ができれば本望だろう。しかし、2018年に厚生労働省がまとめた「労働安全衛生調査」によれば、現在の仕事や職業生活にストレスを感じている労働者の割合は58%。「上司と親は選べない」という話はよく聞くが、半数以上がストレスを抱えている実態からは、ある種の諦めが見られる。

こうした状況に一石を投じる制度として2016年に創設された国家資格が、仕事やキャリア形成に関する相談者の悩みや不安に耳を傾け、その人に適したアドバイスを行う「キャリアコンサルタント(通称キャリコン)」である。

キャリコンはストレス社会を変えられるのか?オンラインキャリア相談室「Kakedas(カケダス)」を立ち上げ、キャリコンと企業社員とのマッチングサービスを始めた株式会社Kakedas 代表取締役CEOの渋川駿伍(しぶかわしゅんご)さん(22歳)に、キャリコンの実態と課題、そしてカケダスの狙いを聞いた。(本誌:松林建)

※この記事は、地域づくり情報誌『かがり火』195号(2020年10月25日発行)に掲載されたものを、WEB用に若干修正したものです。

相談者の悩みや不安を言語化

── 私自身もサラリーマン経験が長かったのですが、仕事や職場に関する悩みや要望は、直属の上司か社内の友人くらいしか相談相手がいませんでした。今回、キャリコンを初めて知りましたが、会社にいながら悩みや不安を相談できる制度ができたことに時代の変化を感じました。どのような理由でキャリコンが制度化されたのですか?

渋川 まさに、社会人が気軽に相談できる環境づくりが国や企業にとって急務だからです。国は働き方改革や人生100年時代構想を進めていますが、背景には人口減少による労働力不足を補うために労働生産性を高める狙いがあります。企業でも、社員が能動的に働ける職場づくりが国際競争を勝ち抜く上で不可欠な要素になっています。社員の意識も、「食べるために働く」から「仕事で自分を生かす」ことへと変わりつつあります。

そうした時代の要請を受けて、キャリコンという国家資格が2016年に創設されました。現在、約5万3千人の有資格者が、企業をはじめ大学、人材派遣会社、ハローワークなどに在籍しています。特に企業が最も多く、人事や福利部門の社員がキャリコンの資格を取って社員の相談に対応するケースが増えています。

── 従来、社員は企業の指示に従っていれば評価されましたが、逆に今は、指示に従うだけでは評価されずに悩む社員も多い気がします。社員の悩みや不安もさまざまですが、キャリコンはどのような相談も受けるのでしょうか?

渋川 仕事からプライベートな内容まで気軽に相談できます。傾聴によって相談者のモヤモヤした悩みや不安を言語化して解消するのがキャリコンの役割ですから。

── でも、キャリコンが社員では、相談者は職場や上司の不満が言えなかったり、人事評価につながりそうで怖がったりしませんか。

渋川 もちろん守秘義務はありますが、社員同士では本音を話しにくいのも事実です。また、企業のキャリコンは通常1名か2名で相談相手を選べませんので、よくミスマッチが発生します。例えば、女性社員が産後の職場復帰を相談したくても年配の男性しか選べず、話が合わなかったケースなどです。そうしたミスマッチをなくし、自分にぴったりのキャリコンに相談できるのが、今年1月に始めた「Kakedas(カケダス)」です。

社員に適したキャリコンをAIがマッチング

── カケダスとはどのようなサービスで、何が特長ですか?

渋川 カケダスは、企業にいながら社外のキャリコンに相談できる場を提供する定額制のサ─ビスです。現在、約860人のキャリコンが登録していて、相談者に適した人をAIが選び、ビデオ通話とチャットによるオンラインで相談に対応しています。相談して相性が合わなければ、別のキャリコンを紹介できます。

── 自分にぴったりのキャリコンをAIが探すのは画期的ですね。どのような方法でマッチングさせているのでしょうか?

渋川 カケダスでは、登録しているキャリコンの経歴、得意な相談分野、性格などを蓄積したデータを保有しています。そのデータと、社員が相談前に受けた性格診断テストの結果を照合して、最も相性がいい相手を独自のアルゴリズムでマッチングしています。相性はパーセンテージで表示されますので、一目瞭然です。

「Kakedas(カケダス)」のマッチング画面。自分にふさわしい相談相手をAI が選んでくれる。

── これだけの人数をよく集めましたね。

渋川 昨年11月にサービスの公募を始めたら、最初の2日で150人が登録してくれました。うち約7割は、企業に所属する社員です。

── 他に仕事を抱えているキャリコンは、副業として登録しているのですか?

渋川 はい。空き時間を活用できますし、企業とつながりが持てますので、キャリコンが待ち望んでいたサービスだと思っています。

相談という市場を作りたい

── ところで渋川さんは現在22歳ですが、大学には行かずに起業したのですか?

渋川 はい。高校時代に学生団体を立ち上げたりビジネスコンテストに参加したりと、起業に近い経験を積んだこともあり、大学には行かずに起業する道を選びました。そして、20歳になった2018年に会社を設立し、自分の学習記録をネットで共有する事業を始めました。しかし、うまくいかずに事業転換を何度も繰り返した後、5度目に始めた事業がカケダスです。

── 始めたきっかけは何ですか?

渋川 事業がことごとく失敗して一人で悩み続けていた時、たまたま知人がキャリコンの資格を取ったので、練習相手として相談したのが発端でした。知人と対話をするうちに、「自分はこのままでいいのか」とか「どう生きるべきか」といったモヤモヤした不安が言語化できて、心がすっきり晴れたんです。その時に、この経験を広めたら救われる人が大勢いると確信して、カケダスを立ち上げました。

「日本に相談のインフラを作る」という壮大な目標を掲げる渋川駿伍さん。

── 個人向けではなく、なぜ企業向けに事業を始めたのですか?

渋川 日本では、お金を払って相談を受けるという文化が根付いていません。なので、企業の福利厚生や研修のなかにカケダスを加えれば、社員は違和感なく社外のキャリコンに相談できて、その価値を実感できると考えたからです。企業に相談文化が定着すれば世の中にも普及して、有料でキャリコンに相談する市場が立ち上がると思います。

── 企業側の反応はどうですか?

渋川 今のところ2極化しています。共感してくれる企業もあれば、「社員をコントロールできなくなるのが不安」、「会社以外の世界を社員に知らせたくない」という企業も多いですね。でも、成長している企業は社員が生き生きと働いていますので、ニーズは高まると確信しています。

── 最後に、今後の抱負を聞かせてください。

渋川 伸びている元気な企業ではカケダスが使われているという状況をつくるのが当面の目標ですが、いずれは日本に「相談のインフラ」を作りたいと思います。日本では水道やガスなどハードのインフラは整っていても、困った時に相談できるソフトのインフラは不足しています。日本に相談のインフラを作り、自分という人生の物語の中で主人公として生きていける人を増やしたい。これが、私の人生を懸けた目標です。

(おわり)

>Kakedas(カケダス)公式サイト

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