絶滅危惧種が普通種になる日を夢見て、自然保護活動をライフワークにした久保田潤一さん

〈今から30年ほど前のこと、潤一少年は福島県郡山市の郊外の団地に住んでいました。周辺を森林に囲まれ、樹液に集まるクワガタを捕まえたり、斜めに倒れた木に登ったり、潤一少年は森の中で自然や生き物と遊ぶことが大好きでした。

夜明けとともに鳴き始める鳥のコーラスで目を覚まし、街路灯の下に落ちているゲンゴロウを拾ったりしながら小学校に通っていました。ところが、開発工事が始まると次々に木が伐り倒され、みるみるうちに住宅地に変わって、森や緑は消えてしまいました。すみかを奪われた虫たちや鳥たちはどこへ行ったのだろう。潤一少年は悲しくて、悔しくてなりませんでした。そして、大人になったら自然を守る仕事をしようと心に誓うのでした〉――。

久保田潤一さん(42)が小学生の時に決心した自然保護の仕事に就いてほぼ20年。夢は「すべての生き物が普通種になり、絶滅危惧種という概念が社会からなくなること」だという。久保田さんに、自然や生き物に対する思いを伺った。

【東神田支局長・NPO法人地域交流センター代表理事  橋本正法】

※この記事は、地域づくり情報誌『かがり火』195号(2020年10月25日発行)に掲載されたものを、WEB用に若干修正したものです。

自然保護を仕事にする

久保田さんは、東京農業大学短期大学部と茨城大学で生物や環境調査を学んだ。卒業後、職場に選んだのは環境NGOだった。そこで、開発予定地の環境を調査して絶滅危惧種を探したり、GIS(地理情報システム)を使って貴重な動植物の位置情報をデータ化し、その地域の自然保護の必要性を行政にアピールする仕事に従事した。

「かつては環境アセスメントが「環境アワスメント」だと言われたりした時代もありましたが、コンサルタント会社とは違って、自然と開発の両立を目指すNGOでした。反対運動だけでは自然を守れないことは分かっていたので、自然を残すための科学的な根拠を示して計画の見直しを提案しました。とはいえ、希少種を見つけても近くの自然地に移したりして、工事は予定通り行われる場合がほとんどでしたね。これだと、自然保護としては失敗です」

アメリカザリガニやウシガエルなどの外来種駆除の作業。

その後、久保田さんは次第に、企業活動が及ぼす自然環境への影響に関心を持つようになった。海外では生物多様性が企業にとっても重要であると認識され、ビジネスのために保全活動をしようという動きが始まっていたからだ。一方、日本の企業は生き物のために何をしたらいいのか分かっていないようにみえた。久保田さんは8年半ほど勤めたNGOを辞め、環境経営コンサルタント会社に転職した。

「生物多様性に強い関心を持つ企業が集まって作る「企業と生物多様性イニシアティブ」という業界団体の事務局を私が担いました。当時は5つほどワーキンググループがあって、企業が所有する土地利用や森づくり、環境に負荷を与えない原材料の調達などをテーマに、ガイドラインを策定したり、講習会を開催したり、意識の高い企業との取り組みはとても有意義でした。

でも、日本全国にたくさんある会社のうち、生物多様性を意識しているのはほんの一握りだけで、その他多くの企業は生物多様性なんて全く気にしていないという現状を知らされました」

熱心な一部の人と無関心な多数の人との二極化が大きな壁として現れた。全体の押し上げを進めるためには、市民一人一人の意識を変えていくしかない。久保田さんは地域住民と直接触れ合える仕事を求めて、特定非営利活動法人NPO birthに転職した。現在、久保田さんは自然環境マネジメント部長である。

NPO birthの事業は大きく二つ。一つは東京都や市町村などの公園管理業務で、公園内の自然環境を豊かにするために保全計画を立てたり、乾燥化する湿地を再生したりして、昆虫などの生き物を増やしつつ、生き物観察会などを開催している。それ以外に、行政や企業からの受託業務として、生き物調査やビオトープづくりなどを請け負っている。一例として、西東京市の田無神社境内のビオトープを紹介してくれた。

「2年前、田無神社の依頼で境内に小さなビオトープを整備しました。遠方の土だと外来種を持ち込むことになってしまうので、近くの田んぼの土をもらって池をつくりました。そうすると、土の中の埋土種子が発芽して水草が繁殖し、それを餌にする昆虫がやってきます。

池には滝をつくって流水環境を確保し、メダカを放流しました。故須田孫七先生が昭和初期から産地を分けて飼育されていたミナミメダカで、今回特別にいただいたものです。皆さん、メダカはどこにいるのも同じだと思うかもしれませんが、遺伝子レベルでは複数のグループに分かれます。東京のメダカは人為的な放流によってどこも雑種になってしまい、純粋な個体群は残っていないのです」

かいぼりでの生物捕獲。

テレビの力を利用して

久保田さんの顔に見覚えのある方もいるだろう。テレビ東京『緊急SOS池の水ぜんぶ抜く大作戦』でレギュラーを務めるほか、フジテレビ『坂上どうぶつ王国』などにも出演しているからだ。自然の大切さを伝えるのに、テレビの力の大きさを実感したという。

「公園で行う生き物教室や自然観察会は、1回の参加者が数十人ですが、テレビは数十万、数百万の人が見てくれます。テレビ番組の力で、外来種という言葉や生き物を勝手に放してはいけないという知識が一気に周知されました。ロケ先では、子どもたちが生き物の名前、外来種か在来種かの違いについて、とても詳しいのでびっくりします。行政からの相談も増えました」

久保田さんはテレビ出演だけでなく、番組制作にも積極的に関わっている。前述の田無神社のビオトープは、実は久保田さんが調整して、『坂上どうぶつ王国』の中で整備されたものだった。

トラップに産み付けられたブラックバスの卵を確認する。

一方、テレビに出ることで、批判を受けることも少なくないという。

「多いのは、かいぼり実施時期に関する指摘です。そもそも、かいぼり(掻い掘り=池などの水をくみ出して干すこと)は夏場に行うものではないんですね。元々が田んぼのため池を管理するための作業なので、農閑期である冬場に行います。水を抜いて水位を下げることで、水中の生き物はダメージを受けますが、暑いとそのダメージがより大きくなってしまう。なので夏場に実施することに関して、特に専門家からは批判の声が上がりやすいのです。

それはごもっともなのですが、そのことだけにこだわり過ぎると、番組の普及啓発効果が見えなくなるんですね。多くの人に自然のことを知ってもらえるチャンスなのに、これはもったいない。私はこのプラスの効果を大事にしたいので、みんなに見てもらえる番組を制作するために、最大限にダメージを小さくするように配慮しながら、やや暑い時期のかいぼりをお手伝いすることもあります。

もちろん、絶対に実施すべきではない場合もありますので、その時はしっかり制作スタッフに駄目と伝えます。NPO birthは番組制作スタッフ、視聴者、専門家、いろいろな立場の人の間に入って全体が良い方向に動くように調整する、そんなイメージでテレビの仕事をしています」

夢の実現を目指して

確かに、日本の生き物環境は外来生物ばかりが増え、在来生物の数はどんどん減っている。その一方で、サル、シカ、イノシシなどの獣害が各地で発生している。

「獣害は今後の重要テーマとして考えています。シカやイノシシは、地方の人口が減っていることや、温暖化で冬越しが楽になったことなどから個体数が増えています。すでにオオカミという天敵を失っていることもあり、大型哺乳類の個体数を減らす仕組みがなくなって、バランスを失っています。狩猟者も高齢化が進んでいます。

野生動物が増えることは自然が良くなっているように感じるかもしれませんが、増え過ぎたシカによって山の植物が丸はげになれば生物の多様性は低下してしまいます。もちろん農業も打撃を受けます。獣害問題に対して、インターネット上では動物がかわいそうという意見をよく目にしますが、自然のバランスや農業従事者の生活のことも考える必要がありますね」

交通事故死したホンドキツネの死体からデータを取る。

久保田さんは、地域の魅力を守るためにも自然を大事にすることは欠かせないと言う。

「自然保護のために生活を犠牲にするのは正しくないので、バランスを取りながら自然を伸ばしていくことが大事です。今後、人口減少に伴いインフラの維持管理が難しくなりますから、いずれは道路を壊して自然公園や森林に戻すといった選択肢を考える必要性も出てくると思います。水害を防止するために緑地を増やすという動きも出てきています。自然対人間ではなく、自然を活用して災害から人間を守るという考え方が必要ではないでしょうか」

最後に、子どもの時に誓った夢はかなっているかを聞いてみた。

「自分が望む人生を歩んではいますが、目標達成には程遠い状況です。日々焦りを感じていますが、うれしいことに、自然保護を仕事にしたいという若者が出てきています。九州の高校生が修学旅行中に話を聞きたいといって訪ねて来てくれたこともあります」

久保田さんの活躍ぶりに憧れて、自然保護を仕事にする次世代が増えることを期待したい。

かいぼりを解説する久保田潤一さん。

(おわり)

>NPO birthホームページ

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