【BOOK GUIDE】内山節著『民主主義を問いなおす』『資本主義を乗りこえる』『新しい共同体の思想とは』(農山漁村文化協会)

内山節をはじめて読む人にはこれまで『里の在所』『時間についての十二章』『子どもたちの時間』などを推薦してきたが、これからは内山哲学の全体像を把握するのにこの三部作をお薦めしようと思う。

この三部作は毎年2月に内山節を講師におこなっている『東北農家の二月セミナー』の2017年、18年、19年の勉強会の報告を書籍化したものである。

「東北農家の二月セミナー」の発足については序文に説明されている。

山形県金山町の栗田和則・キエ子夫妻から講師を依頼された時、内山は群馬県上野村で2畝の畑を耕し始めたころだった。専業の農家の人たちを相手に話す力はないと内山は断ったが、その時の栗田氏の言葉は次のようなものだったという。

「私たちはプロですから、農業や農村のことは私たちに任せてもらえばよい。そういうことではなく、今日では農家も世界はどうなっているのかとか、社会とは何か、いま何を考えなくてはいけないのかといった、さまざまなことを視野におさめていかないと、農業、農村を維持するのも大変な時代に入っている。ですからそのときの問題意識で自由に話してくれればよい。それを参考にしながら、農業、農村の場で動くのは私たちの仕事だ」

何と東北農家の志の高いことか。驚くのはこのセミナーが35年あまりも続いているということである。この三部作を読めば内山も少しも手を抜くことなく、全身で農家と向き合ってきたことがわかる。

栗田氏は本誌の読者で、発行人と同じ昭和18年生まれである。高度経済成長に差し掛かった時に中学生だった。高校を卒業すると同級生の多くは都会に出たが、栗田氏は父親と共に山に入って植林に従事した。田畑を耕作した。高度経済成長に浮かれている時に、黙々と田園を守ってきた農家の人たちがあって今の日本の田園景観がある。

最近、資本主義を疑う書籍が本屋の店頭に並んでいるが、どうにも堅苦しく読み難い。この三部作には難解な哲学用語もアカデミックな学説の解釈もないが、私たちは今、どんな時代に生きているのかよく分かる。

(『かがり火』発行人・菅原歓一)

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※この記事は、地域づくり情報誌『かがり火』199号(2021年7月25日発行)掲載の内容に、若干の修正を加えたものです。