銚子をアピールしたい!銀座7丁目に食事処兼アンテナショップ「江戸フィール」を立ち上げた和泉大介さん

和泉大介さん(24)を取材したのは、2度目の非常事態宣言発出中の1月25日だった。江戸フィールがある銀座7丁目は、銀座駅と新橋駅のほぼ中間にある。銀座界隈は大通りにこそ人通りがあったが、脇道は閑散としていた。飲食店も大半が閉まっていた。

江戸フィールが入っているビルは脇道から入った路地にあった。建物の構造は、階段の踊り場ごとに小さな飲み屋があるといった造りで、江戸フィールは4階ベランダに10人のテーブル席とカウンターに椅子が4脚、同席すれば必ず知り合いになれるだろう。

和泉さんとは初対面だったが、銚子愛にあふれた受け答えは聞いていて心地よかった。若者ならではの初々しい頑張りと郷土・銚子への熱い思いを紹介する。

【東神田支局長・NPO地域交流センター代表理事 橋本正法】

※この記事は、地域づくり情報誌『かがり火』197号(2021年2月25日発行)掲載の内容に、若干の修正を加えたものです。

1.高校の授業でクラウドファンディングに挑戦

インタビューの第一声は「僕は銚子商の出身なんですよ。ご存じですか?」であった。

むろん知っている。千葉県立銚子商業高校といえば、高校野球の強豪校であり、かつての甲子園の常連校だ。昭和49年夏の大会では元ジャイアンツの篠塚和典選手が4番打者として活躍し、見事に優勝を果たした。その前年の夏の大会で、怪物江川卓投手を擁する作新学院との死闘は、今も鮮明に覚えている。

和泉大介さんが地域おこしに興味を持ったきっかけは、高校の授業で銚子電鉄をテーマにした地域課題の解決を体験したからである。銚子電気鉄道線は市内の銚子駅から外川駅までの6.4kmを結ぶローカル鉄道であるが、平成26年1月に起こした脱線事故で故障した車両の修理ができずにいた。そこで、和泉さんたち高校3年生が、修理費を集めるためにクラウドファンディングに挑戦したのだ。

高校3年の「課題研究」で銚子電鉄と関わったことで、地域づくりの楽しさに目覚めた。

「自分が3年生の時、新たに『課題研究』という授業が始まったのです。『地域活性化』をテーマに3つのコースがあって、僕は銚子電鉄を選びました。利用者を増やすためにイベントや車内販売などの企画を立てて、ミーティングに行きました。そこで、お金がなくて事故車両の修理ができないことを知って、だったら修理する資金をクラウドファンディングで集めようと考えたのです。車両を全部直すには1000万円は掛かると言われ、それは無理なので300万円を目標に始めました。

何も分からずにスタートしましたが、すぐに鉄道マニアがネットで拡散してくれて、寄付が集まり始めました。その後、高校生が頑張っているということでNHKの「首都圏ネットワーク」で報道されて、そうすると他のテレビ局やマスコミからも取材されることになりました。結果的には484万3000円も集まり、車輪の修理費に充てることができました。2015年4月には復活式が開催されました。車両には記念のヘッドプレートが設置されています」

2.学生団体「SUKIMACHI」の代表を務める

銚子電鉄に関わったことで地元への思いを強くした和泉さんは、将来は警察官になって銚子市内で勤務したいと考え、獨協大学法学部に進学した。また、学生団体「SUKIMACHI」に参加し、代表も務めた。本誌187号で紹介した前島玲美さんは、和泉さんの次の代表だ。

「SUKIMACHIは、全国から上京して大学に通っている学生が集まって、出身地や好きなまちをテーマにイベントをする学生組織です。最初に東京農大と日大の学生が企画して始まり、イベントを仕掛けて仲間を増やしていきました。僕は発足メンバーではありませんが、第2期と3期の代表です。主な活動は、全国の地元好き学生を集めた『地元好き集まらん会』やオリジナルツアー「全国すきMatch旅」の開催、企業や行政の事業とタイアップした地元PR活動など。神田の地域交流居酒屋「なみへい」で交流イベントを開催した時は、オーナーの川野真理子さんに大変お世話になりました。「日本で最も美しい村」連合理事の市原実先生や淑徳大学の芹澤高斉教授とも知り合うことができました」

SUKIMACHI主催の地元好き集まらん会。

『かがり火』支局長の名前が次々に出てきてうれしくなったが、雑誌『かがり火』は見たことがなかったそうだ。今回のご縁を大切にしたいと思う。

大学3年の時、和泉さんは最年少の銚子観光大使にも任命されている。

3.NPO法人「日本で最も美しい村連合」に就職

獨協大学を卒業した和泉さんは、NPO法人「日本で最も美しい村」連合に就職した。警察官ではないのは、大学に入ってから「警察官は地元(出身地)の警察署に配属されない」ということを聞いて、警察官は地域活動には向かないと判断したからだそうだ。

「日本で最も美しい村」連合は、「フランスの最も美しい村」運動に範を取り、日本の農山漁村の景観・文化を守りつつ最も美しい村としての自立を目指す運動として、2005年にスタートした。現在、町村や地域などの63団体が加盟している。

「副会長の二宮かおるさんが銚子電鉄の活動や観光大使のことを知っていて、僕のことを推薦してくださったので、運よく採用されました。たくさんの地域に行かせてもらい、飯舘村の菅野典雄村長(当時)、美瑛町の浜田哲町長(当時)など、素晴らしい町村長に会うことができました。

毎年開催している「日本で最も美しい村連合フォーラム2019」の企画を担当したり、その他のイベント企画も任されました。いろいろな地域での仕事は楽しかったのですが、かえって銚子への使命感が強まってしまって……」

和泉さんは1年足らずでNPO法人「日本で最も美しい村連合」を退職する。和泉さんの行動原理は、WHYも銚子、WHATも銚子、WHEREも銚子なのである。

大学生の時、越川 信一銚子市長から銚子観光大使に任命される。

4.江戸フィールを立ち上げる

銚子を思う気持ちは山ほどあった。和泉さんは社会人2年目にしてリレイル株式会社を設立する。リレイルとは造語で英語にすると「Re-Rail」であり、「もう一度ここから地域の未来のレールを敷く」という思いが込められている。だが、思いはあっても計画はなし。設立してから何をしようかを考えた。和泉さんは楽天家でもあるらしい。

「会社はつくったが、仕事は何もありません。所持金は10万円。生活費を稼がなければならないだろうからと、獨協大学の6歳年上の先輩の紹介で、東京・麻布十番のコワーキングスペースを管理する仕事に就きました。その先輩には、会社の経営も見てもらっています。ところが、その矢先に緊急事態宣言が発令され、5月まで休館になってしまいました。どうしようかということで先輩に相談して、銚子産のサバでサンドイッチを作ってテイクアウトで販売することに決めました。僕は料理未経験なので、イタリアンシェフの糸井壮志さんに商品開発を頼みました。麻布十番の建物の前で「サバサンド」の販売を開始し、次いで銀座でも販売を始めたところ、結構売れたのです。そこで、銀座に出店しようという話になり、居抜きで初期投資が少なく借りられる場所が見つかったので、江戸フィールを立ち上げることにしました」

江戸フィール構想は、飲食店で働いた経験のある津久井悠生さんと共同して練り上げた。和泉さんは銚子をテーマに、津久井さんは川越をテーマにした食事処兼アンテナショップというコンセプトだ。資金作りには再度クラウドファンディングを活用して225万円を獲得している。昨年7月7日、銀座7丁目に江戸フィールが誕生した。

江戸フィールを共同経営する津久井悠生さん(右)は頼れる大学の先輩だ。

「津久井さんは獨協大学の先輩で、川越市出身です。銚子も川越も『小江戸』と言われるまちなので、「小江戸から江戸へ贈る」をテーマに、それぞれの特産品を食材にした料理と、観光や歴史・文化を発信することを考えました。SNSで発信したり、いろいろなPRもして、テレビも全国ネットで7回くらい取り上げてもらっています。ただ、テレビに出てもお客が増えることにはならないので、飲食店の難しさをつくづく思い知らされてもいます」

月々の売上をキープすることが厳しくなり、和泉さんは10月ころから疲れを感じ始めていた。

5.やりたいことは無尽蔵のごとく

コロナの第3波で、11月ころから飲食店の時間短縮が言われ始め、江戸フィールも11月、12月と臨時休業が続いた。誰のためのお店なのかが分からなくなり、和泉さんはメンタル面から体調を崩してしまった。

「まだ完全に復調しているわけではないのですが、何とか耐え抜くため、新しいことに挑戦しています。銚子の地ビールメーカーと協働して、女性をターゲットにした低アルコールの微炭酸ビールをOEMで 600本製造中です。

銚子商業高校の同期生が地ビールメーカーで働いているので、一緒に商品開発をしました。ラベルのデザインも同級生のデザイナーに描いてもらいました。銚子電鉄のカラーと犬吠埼の灯台がモチーフです。第1弾は白ビールで、2月1日から販売を予定しています。価格は330mlで660円(税込み)です。第2弾、第3弾も違うテイストで出します。小ロットのため原価が高いので、収益があがる事業だとは考えていません。江戸フィールで販売するほか、ネット通販や銚子電鉄での販売、ふるさと納税の返礼品としての利用を考えています」

いやはや、オリジナル地ビールも収益は度外視しているという。そんな調子で生活費を賄えるのか心配になる。

「今すぐ稼げるとは思っていません。銀行融資を受けたので当面の軍資金はありますし、草加市の自宅は家賃2万円なので、月に15万~20万円あれば、生活費とデート代は足ります。生活が苦しいという気持ちはないですね。今は4~5年先を見据えていろいろなことを試している段階です。稼ぐのは30歳からでいいし、そのイメージはできています。

4月から2期目に入ります。行政や観光協会、地元企業とのつながりができたので、協働プロジェクトを考えていきたいです。銚子の水産会社と一緒にまちを発信する商品開発をしたり、川越の農作物と銚子の海産物を使った料理を提供するとか。5月には銚子で初めて東京の学校の修学旅行を受け入れるので、その企画も考えているところです」

銚子港の水揚げ量は10年連続で日本一です、と語る和泉さん。

和泉さんの口からは、やりたいことが次々に出てくる。さらに和泉さんは、将来は市長になることも視野に入れている。

「菅野村長や浜田町長にお会いして、自分も同じようになりたいと強く思いました。地域住民が銚子は良いまちだよねと思えるように、課題があってもみんなで解決していけるようなまちが理想です。銚子市議会議員は自分の仕事をしながらでもできるので、まずは議員になって地域の底上げに貢献したいという思いもあります。市長になれたら、若者の創業を応援したいですね。起業して地域を盛り上げてもらい、市民の「地域プライド」が高まるまちづくりをすることが目標です」

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和泉大介さんは、いわゆるZ世代である。デジタルネイティブであり、社会的な関心が高く、人間の平等感が強く、思考は現実的であるとされるが、当てはまっているような気がする。また、周りを巻き込む力とでもいうのだろうか、身近に良き協力者が多いとも感じた。これからの彼の動きに注目し、市長になる日を楽しみに応援していきたいと思う。

行動原理がWHYも銚子、WHATも銚子、WHEREも銚子の、和泉大介さん。

Edofeel〈江戸フィール〉

東京都中央区銀座7-7-12  GINZA STEPS STEP4

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