昨年『かがり火』では、神奈川県小田原市で農業と自然エネルギーを組み合わせた地域自給圏づくりを進める小山田大和さん(合同会社小田原かなごてファーム代表社員)を取材した。その小山田さんが、かねてより開業準備を進めてきた「農家カフェ SIESTA(シエスタ)」が、1月9日にオープンした。
この農家カフェは、単なる飲食店ではない。カフェで使う食材と電気を同じ地域で生産する地産地消型の店舗であり、ソーラーシェアリングで発電した電力を送電線経由で自家消費する、全国初の「オフサイト型のNon-FIT」モデルなのだ。地域自給圏の実現に大きな一歩を踏み出した小山田さんを、改めて取材した。
【取材・撮影:松林 建】
食とエネルギーの地産地消モデルを実現
「農家カフェ SIESTA」は、JR御殿場線の下曽我駅に近い小田原市成田(なるだ)の国道255号線沿いに店を構える。オープン日の1月9日には、小山田さんの兄貴分的な存在である前小田原市長の加藤憲一氏をはじめ、小山田さんとともに地域自給圏づくりを進めている松田町の本山町長、大井町の井上酒造の井上寛社長らが駆けつけ、カフェの開業を祝った。
『かがり火』194号で紹介した小山田さんは、小田原の地で地域自給圏をつくることを人生のミッションに掲げ、活動している社会起業家。自然エネルギーを作りながら、自らもエネルギーの塊となって周囲に熱量を発散し、応援者を増やしている。これまでも小山田さんは、耕作放棄地だったみかん畑を復活させたり、農地に太陽光パネルを設置するソーラーシェアリングを事業化させたりと、難題に立ち向かいながらもコツコツと成果をあげてきた。そんな小山田さんにとって、1月9日は特別な日となった。小規模ながらも、食とエネルギーの地産地消モデルを作り上げたのだ。
全国初のオフサイト方式によるNon-FITモデル
今回の小山田さんの取り組みが画期的な点は、大きく2つある。
1つは、全国で初めて、オフサイト方式によるNon-FITモデルを実現した点だ。
オフサイト方式とは、小山田さんが建設した太陽光発電所とカフェを既存の送電線でつなぐやり方。発電した電気を新電力会社のグリーンピープルズパワー株式会社に売り、その電力をカフェが買って使用する。電力は目に見えないので地産地消が実感しにくいが、小山田さんが作ったモデルは、電力を生む発電所と消費するカフェが至近距離にあるので、イメージがつかみやすい。1箇所で電力を生産・消費するオンサイト型と違って場所の制約がないので、電力の地産地消を広域で実現できる。
ただし、現在は電線の工事中で、実際に通電が始まるのは2月中の予定。なので、一足早くカフェをオープンしたことになる。2月に通電が始まったら、カフェで使う電力消費量と発電量が確認できるメーターを取り付け、電力の自家消費を目で確認できるようにするそうだ。
信用保証協会を絡めた画期的な融資方法
もう1つは、資金調達方法である。
小山田さんは、このモデルを作るために神奈川県の城南信用金庫から融資を受けたが、その時に、神奈川県の信用保証協会から保証を取り付けた。信用保証協会とは、中小企業等が金融機関から融資を受ける際、その債務を保証する機関。全国の都道府県にあるので、小山田さんのような取り組みを他県で始める場合、各県の信用保証協会を通せば地場の金融機関から融資を受けられる。これも、「電力の自家消費モデルを全国に広めたい」という小山田さんの熱意が、金融機関の担当者の心を動かした結果だ。
「従来のFITでは、20年間にわたり国が電力を買い取りましたので、金融機関も事業性があると判断して融資をしていました。しかし、このモデルはFITではないので、金融機関で融資の判断が難しかったのです。そこで、城南信用金庫さんと何度も打ち合わせをして、県の信用保証協会が事業を保証するスキームを作りました。これにより、今後は全国各地で同じモデルを作ろうとした場合、全国の信用保証協会と金融機関から融資が受けられます。この点が画期的で、困難だったNon-FIT型の再生可能エネルギー融資の世界に風穴をあけたと思っています。こうしたチャレンジができたのも、新電力会社のグリーンピープルズパワーさんの理解があってこそ。電力会社とは一蓮托生です」
話を聞きながら、小山田さんの熱量が金融機関や電力会社を次々と引き込み、応援の輪が広がっている印象を覚えた。
社会の分断を減らしたい
しかし、農家カフェのオープンは小山田さんにとっては通過点に過ぎない。
「今回、地域自給圏が目に見える形になった点は、とても大きいと思っています。また、環境省が提唱する地域循環共生圏のモデル地区の小田原で実現できたことも誇らしく思います。今後は、早く事業として採算が取れるレベルまで引き上げるとともに、この事例を講演会やセミナーなどで全国に発信して、電力の自家消費モデルを増やしていきたいですね」
そして、地域自給圏構想の到達点は、社会の分断を減らして互いの顔が見える社会を作ることだと、小山田さんは話す。
「このカフェは飲食店というよりも、人と人のつながりを再生産する拠点です。規模はまだ小さいですが、こうした動きが地域から全国、そして世界に広がれば、社会が良い方向に変わるでしょう。その可能性が開けた気がしています」
二宮尊徳ゆかりの地で活動
最後に、小山田さんが自給圏を構築しようとしているエリアは、小山田さんが尊敬してやまない二宮尊徳が生誕した地。数多くの農村を復興して農業の変革者として名高い尊徳ゆかりの地で活動ができることを、小山田さんは心から誇りに思っているそうだ。
それにしても、昨年夏の取材時に「自家消費モデルの象徴となる農家カフェをオープンする」と宣言してから半年あまり。小山田さんの実行力は本当に素晴らしい。私も微力ながら定期的に訪問して、PRしていきたい。
(おわり)
小山田大和『食エネ自給のまちづくり』田園都市出版社、2022年。
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